カルキ
カルキン · 白馬の化身 · シャンバラの子
ヴィシュヌの第十にして最後の化身。カリ・ユガの終わりに白馬に跨って現れ、非法を滅ぼして新たな時代を開くとされている神。
解説
概要
カルキ(Kalki / कल्कि)は、ヴィシュヌの第十にして最後の化身とされる。名は「時」あるいは「汚れを滅ぼす者」と解される。白い馬に跨る英雄、あるいは白い馬頭の姿で表され、はるか未来のカリ・ユガの終わりに現れて非法(アダルマ)を滅ぼし、新たなクリタ・ユガをもたらす救世主とされる。十化身のうち、ただ一人まだ現れていない化身である。
神話・物語
『マハーバーラタ』や諸プラーナは、カリ・ユガの末期を次のように描く。人は短命となり、王は民を守らず盗賊のようにふるまい、祭祀は絶え、真実を語る者がいなくなる。その極まったときに彼が現れるという。
シャンバラの村に生まれ、ヴィシュヌヤシャスという名のバラモンを父とすると語られる。白馬デーヴァダッタに跨り、燃える剣を執って世を巡り、非法をなす者を討つ。悪が絶えたのち、新たな黄金時代クリタ・ユガが始まり、時の輪はふたたび最初へ戻る。
未来に属する化身であるため、その事績は予言の形でしか語られない。物語というより、時間論の構造そのものを担う存在である。パラシュラーマが彼に技を伝えるのが最後の務めであるとする伝えもあり、不死者たちが世を去らずにいる理由の一つとして説明される。
図像と象徴
白馬に跨り、剣を掲げる姿が最も広く行われる。馬の頭をもつ人身として表す作例もあり、この場合ハヤグリーヴァと混同されることがあるが、両者は別の存在である。象徴となるのは白馬と剣であり、剣は非法を断ち切る力を、白馬は時の疾走を表すと解される。
十化身を一列に並べた図像において、彼はつねに末尾に置かれ、しばしば他の九体と異なり未完成の輪郭で描かれる。まだ現れていないことを図像の側で示す工夫である。
系譜と関係
ヴィシュヌの第十化身。系列の第一マツヤから第九に至るまでが過去の出来事であるのに対し、彼だけが未来に属する。この一点によって、ダシャーヴァターラの系列は閉じることなく開かれたままとなっている。第九をブッダとするかバララーマとするかは学派によって異なるが、第十が彼であることはいずれの伝えでも変わらない。
文化的足跡
終末に救世主が現れて悪を滅ぼし、新たな時代を始めるという構図は、他の宗教の終末論としばしば比較されてきた。もっともインドの時間論は循環的であり、彼の出現は歴史の終わりではなく次の周期の始まりを意味する。直線的な終末観との違いは、比較にあたって留意すべき点である。
近代以降、自らをカルキと称する人物が現れることが繰り返しあった。19世紀以降のインドの宗教運動には、この予言を自らの権威づけに用いた例が少なくない。未来に属する化身であることが、そのつど現在へ引き寄せられてきたことを示している。