トゥトゥ
ティトエス · トゥトゥ神 · Tutu
末期王朝期のエジプトで庶民に広く信仰された守護神。有翼の獅子に人の頭、隼と鰐の頭が突き出し、尾は蛇という複合の姿をとる。ネイトの子とされる。
解説
概要
トゥトゥ(twtw、「像」の意。ギリシア語形ティトエス)は、エジプト神話の神である。末期王朝期にエジプト各地の庶民のあいだで広く信仰された。
魔物を退ける守護神であり、その称号は「獅子」「力強き者」「セクメトの魔物とバステトの彷徨える魔物どもの主」。母はネイトとされる。
神話・物語
固有の神話は伝わらない。この神について知られているのは、称号と、図像と、庶民の祭祀の形である。
「危険な女神」と呼ばれる一群がエジプトにはいた。ネイト、ムト、セクメト、ネクベト、バステトがそれにあたる。これらの女神は病や災厄をもたらす魔物を送り出すとされ、その魔物を制するのが同じ女神たちの息子の役目であった。トゥトゥはネイトの子としてこの位置に立つ。同じ働きをする神にはマアヘス、コンス、ネフェルトゥムがいる。母が放ち、子が抑えるという構図である。
もとは墓の守護者であったが、のちに眠る者を危険と悪夢から守る神となった。シェンフールの神殿における称号は「己を呼ぶ者のもとへ来る者」。呼べば来る神という規定は、大神殿の祭祀ではなく個人の祈りに応える神格の性格を言い当てている。
祭祀の形も庶民的である。神殿ではなく持ち運びのできる祭壇の上で供物と儀礼が行われた。供えられたのは鵞鳥とパン。儀礼の目的は魔物と悪夢からの守護であり、この神は長命を授け、冥界の危険から人を守るとされた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エジプト学の慣行に沿って描かれた線図である。
図像は複合的である。歩みを進める有翼の獅子の胴に人間の頭を載せ、胴からは隼と鰐の頭が突き出し、尾は蛇になっている。守るべき対象が複数であるように、姿もまた複数の獣を束ねている。
この造形は、末期王朝からローマ期にかけて流行した「多形の護符」の系列に属する。魔物を退ける力を、できるだけ多くの獣を重ねることで表す発想である。同じ時期に流行したベスの護符と並べて考えられる。
関わる神格・伝承
母はネイト。「危険な女神」の子として、マアヘス、コンス、ネフェルトゥムと同じ機能を分担する。
この神に捧げられたと確実に分かる神殿は、古代ケリス(現ダフラ・オアシスのイスマント・アル=カラーブ)の一件のみである。ただし浮彫は他の神殿にも見られ、カラブシャ神殿がその例にあたる。神殿の少なさと分布の広さの落差が、この神の性格——場所ではなく人に属する神——を示している。
文化的足跡
日本語圏でこの神が紹介されることはほとんどない。エジプトの神々の一覧に名が載る程度である。
しかし末期王朝期のエジプトにおいて、庶民が実際に祈った相手はこうした神格であった。国家祭祀の主神ではなく、悪夢を払い、家を守り、呼べば来る神。持ち運びのできる祭壇という祭祀の形は、神殿を持たない信仰がどう営まれたかを具体的に伝えている。