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ベス
PLATE — BS
AEGYPTVS · エジプト神話
BS

ベス

ベサ · ビス · ベース

The Metropolitan Museum of Art, CC0 CC0

古代エジプトの家庭を守る神。大頭に短い脚、舌を出した正面向きの異形で表され、ナイフや太鼓を手に悪しきものを追い払う。出産と子どもの守護者として、王侯よりも庶民に親しまれた。

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解説

概要

ベス(bs / Bes)は、エジプト神話の家庭の守護神である。女性形のベセトと対をなす。母と子、そして出産を守る神とされ、のちには善きものすべての味方、悪しきものすべての敵と見なされるようになった。

出自は定まっていない。長らくヌビアあるいはC・グループ文化からの外来神とされ、中王国期に入ってきたと説明されてきた。だが先王朝ナカダ期のテル・エル=ファルハからベス形の小像が十三体出土しており、この説明は揺らいでいる。名の由来も、ヌビア語で「猫」を意味する語に結ぶ説、エジプト語の「炎(bs)」あるいは「入門する(bz)」に結ぶ説があって決着しない。

国家の神殿祭祀では、ほとんど重んじられなかった。それでいて家具、化粧容器、哺乳瓶、護符、枕、ゲームの駒——生活の道具のいたるところに現れる。神殿ではなく家に置かれた神である。

神話・物語

物語がない。系譜も、事績を語る挿話も伝わらない。この神について残るのは、何をする神かという機能の記述だけである。蛇を殺し、悪霊を追い、子どもを見守り、産婦のもとで邪気と戦う。出産の場ではタウエレトとともに立ち会うとされた。

悪しきものを追い払うという一点から、ベスの領分は反転して広がる。悪を退ける神は、退けたあとに残るもの——音楽、踊り、酒宴、性の悦び——の神でもあった。婚礼の守り手ともされる。

プトレマイオス朝のサッカラには、ベスとベセトの図で埋め尽くされた小室が造られている。不妊の治療、あるいは癒しの儀礼のための空間だったと考えられているが、確定はしていない。

図像と象徴

最大の特徴は、正面を向いていることである。エジプトの神々は横顔で描かれるのが原則で、ベスはその原則の例外にあたる。真正面から見る者を睨み返す構図そのものが、近づく悪への威嚇として働く。

造形も規格外である。大きな頭、短くがに股に開いた脚、突き出した舌、垂れた鬣あるいは獅子の耳。頭に羽根の冠を戴き、豹の皮をまとう。手にはナイフ、護符、太鼓や竪琴を持ち、子どもを抱くこともある。勃起した姿、兵士の外衣を着けた姿もあって、いつでも撃って出られる構えが強調された。初期のベスは後脚で立つ獅子の表現だったとする見方もある。

どこに現れるかが、この図像の意味を語る。中王国期には河馬の牙を削った「魔法の杖」、仮面、護符、哺乳瓶に彫られた。デイル・エル=メディーナの第19王朝の壁画には、楽器を奏でる女性の太腿に踊るベスの刺青が描かれている。顔を口部に象った壺も多く、この意匠には西アジアの土器の影響が指摘される。前2世紀の儀礼用ベス壺からは、シリアン・ルー(ハルマラ)と青睡蓮の成分が検出されており、器が実際に何かを飲むために使われたことが化学分析から裏づけられた。

本サイトが主画像に掲げるのは、メトロポリタン美術館蔵のベス形の化粧料容器(第27王朝)である。神の姿を容器そのものにしてしまうこの扱いが、ベスの置かれた位置をよく示している。

系譜と関係

親も子も定まらない。妻とされるベセトは、ベスの名を女性形にしたものである。

結びつきは系譜ではなく機能を通じて生じる。出産と育児ではタウエレト、音楽と悦びではハトホル、生殖ではミン、戦う守護者としてはホルスホルス碑板の上端に据えられるベスの顔は、この最後の結びつきをそのまま図にしたものである。出産の場を描くマンミシの壁面にも、タウエレトと並んで繰り返し現れる。

崇拝は上エジプトが下エジプトに先立つ。『ピラミッド・テキスト』に名が見え、中王国期に広く知られるようになった。

文化的足跡

輸出された神である。フェニキア人とキュプロス人がこの図像を好み、クレタ島ではむしろ女性形のベセトが受け入れられた。前6世紀末以降、当時エジプトを支配していたアケメネス朝を通じて図像は東へ広がり、スサや中央アジアにまで達する。時代が下ると、ベスはペルシア風の衣装と頭飾りで描かれるようになった。地中海西端のイビサ島の名をフェニキア語の「ベスの島」に由来するとみる説もあるが、確証はない。

エジプト国内でも信仰は長く続き、テル・エドフからは後10世紀にさかのぼるとされるベス図の水差しが出土している。神殿の祭祀が絶えたのちも、家の神は残ったことになる。現代の小説や漫画にも名が出るが、造形も設定も作品ごとのものである。

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領分・別名

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資料

Wikidata
Q188931 — 骨格データの出典
Commons
Bes — 図像カテゴリ