タレジュ
タレジュ・バワニ · タレジュ・マージュ · トリプラ・スンダリー
ネパールのマッラ朝が王家守護神として奉じた女神。ドゥルガーのタントラ的な相とされ、生き神クマリはその顕現と位置づけられる。
解説
概要
タレジュ(Taleju / तलेजु)は、ネパールで崇敬される女神で、タレジュ・バワニ、タレジュ・マージュ(母タレジュ)とも呼ばれる。ドゥルガーのタントラ的な相と理解され、カトマンズ盆地を治めたマッラ朝の王家守護神(クラデーヴィー)であった。主たる聖所はカトマンズ・ダルバール広場のタレジュ寺院である。生き神クマリがその顕現と位置づけられることによって、この女神は現在も盆地の宗教生活の中心にある。
神話・物語
信仰は14世紀にマッラ朝の王たちによって盆地へ持ち込まれたとされ、その源はシムラウンガドのカルナータ朝に遡るともいわれる。縁起によれば、ハリシンハデーヴァ王は神託を得てサラユー河からタレジュに結びついた聖なるシュリー・ヤントラを取り出し、王妃デーヴァラデーヴィーと王子ジャガトシンハを伴ってネパールへ運んだ。女神が正式に勧請されたのはこののことであるという。
またマヘンドラ・マッラ王の夢に現れ、カトマンズに寺を建てるよう告げたとも伝えられる。以後、女神はマッラ王権を守護し、その正統性を保証する存在となった。
クマリの成立を語る縁起は、この女神をめぐる最もよく知られた挿話である。タレジュは夜ごとジャヤプラカーシュ・マッラ王のもとを訪れ、賽の遊戯を共にしながら助言を与えていた。ある夜、王が禁を犯したために女神は怒って姿を消し、今後は初潮前の少女の姿でのみ現れると告げた。この託宣に従って始まったのがクマリの制度であるとされる。
図像と象徴
タレジュは、水牛の魔を討つドゥルガー(マヒシャースラマルディニー)の相として理解される。ただし礼拝の中心にあるのは人体形の像ではなく、シュリー・ヤントラと呼ばれる幾何学図形である。女神の実在はこのヤントラのうちに宿るとされ、祭祀はラージョーパーディヤーヤ僧やカルマーチャーリヤ僧による観想・真言・供物を用いた秘儀として行われる。
カトマンズのタレジュ寺院は1564年にマヘンドラ・マッラ王が建てたもので、十二段の基壇の上に立つ塔形(パゴダ様式)をとる。その構成はシュリー・ヤントラの構造に倣うとされる。一般に開かれるのは年に一度、ダサインのマハーナヴァミーの日だけである。同様の寺院はパタンとバクタプルにもあり、盆地の三王都それぞれが自らのタレジュを擁していた。
系譜と関係
ドゥルガーの一形態であり、名はトリプラ・スンダリーに由来するとする説もある。クマリはこの女神の生きた器と位置づけられ、その表情や所作は女神の意思を伝えるものとして読まれる。カトマンズ盆地に濃密に見られるバイラヴァ信仰やシャクティの観念とも重なり合っており、ネワール社会の宗教はヒンドゥーと仏教の境界を越えて営まれている。
文化的足跡
タレジュはマッラ王権の霊的な支柱であると同時に、政治的な正統性の根拠でもあった。王制が廃されたのちも、公的な儀礼や祭のなかで敬われ続けている。年に一度のダサインの開扉には多くの参拝者が列をなす。王家の守護神が、王家の消滅ののちも都市の守護神として存続している例として、南アジアの都市祭祀を考えるうえで示唆に富む。