スアルタム・マク・ロイヒ
スアルタム · スアルタハ · スアルタム・マクロイ
アイルランド神話のアルスターの領主。クー・フーリンの人間の側の父で、切り落とされた首がなお叫んで国を目覚めさせた。
解説
概要
スアルタム・マク・ロイヒ(Súaltam mac Róich)は、アルスター物語群に登場するアルスターの領主である。デヒテラの夫であり、クー・フーリンの人間の側の父にあたる。神ルーを父とする誕生譚と並んで、この英雄には二人の父がある。
名から見てフェルグス・マク・ロイヒの兄弟にあたる。物語のなかで彼が果たす役は多くないが、『クアルンゲの牛捕り』の終盤で決定的な一場面を担う。
神話・物語
デヒテラが神の子を宿したことは、アルスターの人々のあいだで醜聞となった。王コンホヴァル・マク・ネサの子ではないかと囁かれるなか、王は彼女を、かねて大きな恩義のあるスアルタムに嫁がせる。稿本の一つは、婚礼の夜、他人の子を宿していることを恥じた彼女がその子を流し、処女のごとくなって夫の床に就き、あらためて身ごもって男児を産んだと語る。生まれた子はセタンタと名づけられた。
『クアルンゲの牛捕り』の終盤、彼は瀕死の息子のもとを訪れる。全身に傷を負ってなお一人で敵軍を食い止めている姿を見た彼は、アルスターの人々に助けを求めに走った。マッハの呪いに伏す彼らのもとへ、息子の馬リアフ・ワハに乗って駆けつける。
エウァン・ワハで彼は叫んだ——男たちが殺され、女たちがさらわれ、牛が奪われている。誰も応じなかった。アルスターでは王より先に口をきくことが禁じられ、王より先に口をきくのはドルイドだけと定められていたためである。三度叫んでも同じであった。
苛立った彼が馬の向きを変えたとき、盾の縁が首を刎ねた。ところが切り落とされた首は、盾の上に載ったまま同じ言葉を叫び続けた。男たちが殺され、女たちがさらわれ、牛が奪われている。ここに至ってようやくコンホヴァルが応じ、アルスターの軍勢は立ち上がる。最後の会戦はここから始まった。
図像と象徴
古代・近代を通じて図像は伝わらず、当サイトも主画像を掲げない。
この人物に結びつく標識は、語り続ける首である。ケルト語圏の伝承には、切り離されてなお語る首の主題が繰り返し現れる。ウェールズのベンディゲイドヴランは自らの首を切り落とさせ、その首は七年のあいだ従者をもてなし、埋められてなお国土を守った。スアルタムの首は、それに比べればはるかに短く、しかしはるかに実用的に働く。死んでもなお同じ一言を繰り返すことでしか、呪いに伏した国を動かせなかった。
系譜と関係
兄弟はフェルグス・マク・ロイヒ、妻はデヒテラ、子はクー・フーリン。
この英雄が「ルーの子」であると同時に「スアルタムの子」であるという二重の出自は、物語群がくり返し扱う主題である。神の子でありながら人の家に属し、名声を選んで早世する。人間の側の父が、息子を助けようとして死ぬという結末は、その構図に一つの答えを与えている。
なお彼は、息子が呪いを免れているのに対し、自身は免れていない。マッハの呪いを受けたアルスターの男の一人として伏していた彼が、それでも起き上がって走ったことを、物語は特に説明しない。
文化的足跡
首が語り続ける場面は、『牛捕り』のなかでも視覚的に強い一節として、近代の再話でしばしば省かれるか、逆に強調されるかのどちらかになってきた。レディ・グレゴリー『ムルヘヴネのクーフリン』(1902年)は多くの残酷な描写を省いたが、この場面は残している。国を動かすのに死者の声が要るという寓意が、20世紀アイルランドの読者に働きかけたためとみられる。