テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
PLATE — ŠPŠ
PHOENICIAN · フェニキア・カナン神話
ŠPŠ

シャプシュ

シャプシュ · シャプシュ女神 · シャムシュ

カナンの太陽の女神。至高神エールの使者を務め、バアルの死と復活の物語で生者と死者の世界を往復する。周辺文明と異なり太陽神が女性である点が特異である。

01

解説

概要

シャプシュ(ウガリット語 𐎌𐎔𐎌 špš、「太陽」)は、カナンの太陽の女神である。シャプシュ、シャムシュとも表記される。

至高神エール——おそらくその父——の王の使者としても働いた。ウガリットの文書における主な添え名は「神々の灯火シャプシュ」「大いなる女主シャプシュ」「永遠のシャプシュ」である。神名表 KTU 1.118 と 1.148 では、アッカドのシャマシュと等置される。

神話・物語

メソポタミアのシャマシュやウトゥとは異なり、アラビアのシャムスと同じく、この太陽神は女性である。

ウガリットの神話において、この女神は使者として繰り返し現れる。バアル神話群では、バアルモートに殺されたのち、アナトがその亡骸を探すのを助ける。バアルの帰還を告げ、モートに対してエールの意志を伝えて争いを終わらせるのもこの女神である。

冥界との関わりも深い。太陽が夜のあいだ地下を通ると考えられたため、シャプシュは死者の世界を知る者とされた。バアルの死と復活をめぐる物語において、生者の世界と死者の世界を往復できるのはこの女神だけである。

名の形にも注意がいる。もとの神名には子音 /m/ が含まれており、この女神に言及するアモリ人の神名にはその形が残る。中期青銅器時代のアラフでは /m/ の無声化と脱鼻音化が起こり、結果として /p/ になった。この変化は中期青銅器時代のアラフと後期青銅器時代のウガリットにのみ確認される。アラフの人名にはシャムシュとシャプシュの両形が混在するが、ウガリットではシャプシュの形しか確認されない。

図像と象徴

固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。

象徴として押さえておきたいのは、太陽神が女性であるという点である。メソポタミアのシャマシュ、エジプトのラー、ギリシアのヘーリオス——周辺の文明の太陽神が男性であるのに対し、北西セム語圏では女性の太陽神が確認される。アラビアのシャムスも同様である。

古アッカド語の人名にトゥリド・シャムシー(「シャマシュがわれを産んだ」)やウンマ・シャマシュ(「シャマシュはわが母」)といった形が見えることから、前3千年紀のメソポタミアにも女性の太陽神の伝統があり、それが北西セム語圏の太陽女神に由来する可能性が指摘されている。

関わる神格・伝承

父はおそらくエール。エールの使者を務め、アナト、バアル、モートと関わる。アッカドのシャマシュと等置される。

アマルナ文書 EA 323 は太陽神のシュメール表語文字 dUTU を女性名詞として用いており、アシュケロンのイディヤに由来する書簡であることから、この女神を指す可能性がある。ティルスのアビミルキがファラオに送った EA 155 にも、女性形の dUTU が見える。

文化的足跡

日本語圏では、ウガリット神話はバアルアナトを中心に紹介されるのが常であり、この女神の名が挙がることはまずない。

しかしバアル神話群において、死と復活の物語を成り立たせているのはこの女神の往復である。太陽が毎日沈んで昇るという事実が、そのまま冥界との通路として機能している。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q535382 — 骨格データの出典