オレステース
オレステス · オレステース · Orestes
アガメムノーンの子。父の仇として母クリュタイムネーストラーを殺し、復讐の女神に追われた末にアテーナイの法廷で赦された。
解説
概要
オレステース(Ὀρέστης / Orestēs)は、アガメムノーンとクリュタイムネーストラーの子である。父を討った母とアイギストスを殺し、そのために復讐の女神エリーニュスに追われた。
彼の物語が特異なのは、結末が復讐でも自滅でもなく裁判である点にある。血の報復が際限なく続く構図を、法廷の評決によって断ち切る——アイスキュロス『オレステイア』三部作は、この一点のために書かれている。
神話・物語
父が殺されたとき、姉エーレクトラーによって(あるいは乳母によって)館から逃され、ポーキス王ストロピオスのもとで育てられた。王の子ピュラデースとの友情は、以後のすべての場面に彼を伴わせる。
成人した彼はアポローンの託宣を受けて帰国する。父の墓前で姉と再会し、身分を偽って館へ入り、アイギストスを討ち、続いて母を殺した。乳房を露わにして命乞いする母を前に一度ためらい、ピュラデースに神託を思い出させられて刃を下ろす。
母の血は復讐の女神たちを呼ぶ。狂気に追われた彼はデルポイへ逃れ、アポローンに浄められるが、女神たちは退かない。アテーナイに至った彼を、アテーナーは市民の陪審にかけた。アイスキュロス『エウメニデス』が描くこの裁判は、アレイオス・パゴスの法廷の起源譚である。票は同数となり、女神の一票によって無罪が決まる。復讐の女神たちは「慈しみの女神たち(エウメニデス)」としてアテーナイに祀られることを受け入れた。
なお、なお解けない狂気を癒すため、黒海沿岸のタウロイ人の地から女神像を持ち帰るよう命じられたとする版もある。そこで祭司となっていた姉イーピゲネイアと再会し、ともに逃れた。
その後はミュケーナイとスパルタの王となり、メネラーオスの娘ヘルミオネーを妻とした。彼女を娶っていたネオプトレモスをデルポイで殺したとする伝えもある。最期は蛇に噛まれて死んだという。
図像と象徴
古代美術が最も多く描いたのは、アイギストス殺害と、デルポイでの浄めの二場面である。母殺しそのものを描く作例は、南イタリアの壺絵に限られる。
本ページの主画像は前380〜370年頃のアプリア赤絵式ベル・クラーテール(エウメニデスの絵師、ルーヴル美術館 Cp710)で、聖域の臍石にすがる彼をアポローンが浄め、左では眠る復讐の女神をクリュタイムネーストラーの亡霊が起こそうとしている。加害者・浄める神・被害者の亡霊・追う女神が一枚に収まる構図であり、悲劇の三部作の筋をそのまま画面にしたものといえる。
系譜と関係
父アガメムノーン、母クリュタイムネーストラー。姉にイーピゲネイア、エーレクトラー、クリューソテミス。妻ヘルミオネー、子ティーサメノス。姉エーレクトラーはピュラデースの妻となった。
タンタロスとペロプスに始まるアトレウス家の血の連鎖は、彼の無罪判決によって終わるとされる。祖先の代から続いた殺害の反復を、都市の法が止めるという構成である。
文化的足跡
ヘーロドトス『歴史』第1巻は、スパルタ人が神託に従ってテゲアから彼の遺骨を探し出し、持ち帰ってからアルカディアを制したと記す。前6世紀の実際の政治的行為であり、英雄の遺骨を都市が招き寄せる慣行の、最もよく記録された例にあたる。
近現代ではサルトル『蠅』(1943年)が占領下のフランスで上演され、母殺しの物語が抵抗の主題として読み替えられた。ユージーン・オニール『喪服の似合うエレクトラ』も同じ神話を南北戦争期のアメリカに移している。