アイギストス
アイギストス · アエギストゥス · Aigisthos
テュエステースが復讐のために娘に生ませた子。アトレウスを殺し、クリュタイムネーストラーとともにアガメムノーンを討った。
解説
概要
アイギストス(Αἴγισθος / Aigisthos)は、テュエステースとその娘ペロピアの子である。兄弟アトレウスへの復讐を果たす者を得るために、テュエステースが神託に従って実の娘と交わって生ませた——という出生からして、彼はもっぱら復讐の道具として作られた人物である。
『オデュッセイア』における彼は、アガメムノーン殺しの主犯である。神々が使者ヘルメースを送って思いとどまるよう警告したにもかかわらず罪を犯し、報いを受けた者として、叙事詩の冒頭でゼウス自身が引き合いに出す。人間が自らの愚かさによって身を滅ぼす例として、物語全体の枠組みに置かれている。
神話・物語
ペロプスの子アトレウスとテュエステースの兄弟は、ミュケーナイの王位をめぐって争った。アトレウスは弟の子らを殺して料理に供し、それと知らずに食べさせる。逃れたテュエステースが復讐の方法を神託に問うと、実の娘に子を生ませよという答えが返った。こうして生まれたのが彼である。
捨てられた乳児は山羊に育てられたといい、名は「山羊」を意味する語に由来するとされる。アトレウスに拾われて我が子として育てられ、成長ののち出生の秘密を知って養父を殺した。父テュエステースとともにミュケーナイを支配するが、アトレウスの子アガメムノーンとメネラーオスに追われる。
トロイア戦争でアガメムノーンが不在のあいだ、彼はその妻クリュタイムネーストラーを口説いて情夫となり、二人で国を統べた。凱旋した王を館に迎え、宴の席で、あるいは浴室で討つ。殺害の主体をどちらに置くかは資料によって異なる。ホメーロスは彼を、アイスキュロスは彼女を主犯とする。
七年ののち、成長したオレステースに殺された。
図像と象徴
本ページの主画像は前4世紀のアプリア赤絵式オイノコエー(ウィンドの一群、ルーヴル美術館 K320)で、オレステースとピュラデースに討たれる彼を描く。
古代の図像における彼は、討つ者ではなく討たれる者である。玉座に坐したまま、あるいは竪琴を手にしたまま刺される姿が繰り返され、アガメムノーン殺害そのものはほとんど描かれない。加害の場面を避け、報いの場面を選ぶという選択は、この主題の図像に一貫している。
系譜と関係
父テュエステース、母はその娘ペロピア。伯父アトレウス。したがってアガメムノーンとメネラーオスは従兄弟にあたる。
クリュタイムネーストラーとの間にアレートスとエーリゴネーをもうけたと伝えられる。エーリゴネーはオレステースの裁判で告発者となり、のちにアルテミスの祭司にされたともいう。
タンタロスとペロプスに始まる血の連鎖は、彼の代で近親相姦と養父殺しを加えた。オレステースの無罪判決によってこの連鎖が終わるとされるのは、彼の代までが最も濃い部分だからである。
文化的足跡
『オデュッセイア』冒頭でゼウスが彼を例に挙げる一節——人間は自らの過ちによって定めを超えた苦しみを負う——は、ホメーロスにおける神と人間の責任の分担を論じるとき、必ず引かれる箇所である。叙事詩全体の主題を提示する役を、脇役である彼が担っている。