テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
PLATE — ORCUS
ROMA · ローマ神話
ORCUS

オルクス

オルクス神 · ホルクス · ウルグス

ローマの冥界の神で、冥界そのものを指す語でもあった。名は日常語として広く使われた一方、祀られた形跡はほとんど残っていない。

01

解説

概要

オルクス(Orcus)は、ローマ神話の冥界の神である。ギリシアのハーデースと同じく、神の名がそのまま死者の国を指す語としても用いられた。ラテン文学にこれほど頻繁に現れる神名は少ないが、その頻度に対して、祀られた形跡はほとんど残っていない。名だけが日常語として生き延びた神である。共和政期のうちにディス・パテルプルートーと一つに束ねられていった。

名の由来は古代から論じられてきた。ウェリウス・フラックスは「押し迫る」を意味する urgere に結びつけ、古くはウルグスと呼ばれたと説いた。近代の研究者は「閉じ込める」arcere の語根を挙げ、あるいはギリシア語の「誓い」ホルコス——偽誓を罰するエリスの子——からの借用と見た。逆に、ホルコスのほうが本来は死の神を指したとする説もある。標準的な語源辞典は、由来不明として扱っている。

神話・物語

固有の物語はない。エンニウスの訳した『エウヘメルス』は「プルートーンはラテン語ではディス・パテル、ある者はオルクスと呼ぶ」と記し、ウァッローは国家の主要な神々にオルクスを数えて、プロセルピナの略奪を彼の行いとし、プルートーの系譜をそのまま移した。アウグスティヌスも「ディス・パテル、すなわちオルクス」と要約している。詩と墓碑のうえで、三つの名は交換可能になった。

ただし語感には差があった。冥界の君主として語られるディス・パテルに対し、オルクスは死をじかに執行する側に置かれる。ウェルギリウス『農耕詩』の「蒼白のオルクス」、ホラティウスの「大なるものも小なるものも等しく刈り取るオルクス」、ティブッルスの「鉛色のオルクス」——いずれも人を連れ去る力としてこの名を呼ぶ。

日常語としての用法はさらに広い。プラウトゥスの登場人物は「オルクスで会おう」と言って別れ、「オルクスと勘定を済ませる」は死に臨むことの慣用句であった。遺言によって解放された奴隷はオルキーヌス・リーベルトゥス(「オルクスからの解放奴隷」)と呼ばれ、カエサルの遺言によって議席を得た元老院議員たちは「オルキーニー」と揶揄された。神の名が法律用語と悪口の両方に入り込んでいる。

図像と象徴

この神を描いたと確認できる古代の作例はない。奉献碑もきわめて稀で、ナポリ出土の墓碑にある「オルコー・ペレグリーノー」の文句も、祭祀ではなく故郷を遠く離れて死んだことを言うものと解されている。フェストゥスがクイエーターリス(「憩わせる者」)という古い添え名を伝えるにとどまる。パラティヌスの丘にオルクスの神殿があったという話は『ヒストリア・アウグスタ』のみが伝えるもので、偽作と見られている。本項に主画像を掲げていないのは、この事情による。

代わりに強く残ったのは、冥界を巨大な口として思い描く形象である。ウェルギリウスは冥界の怪物たちを「オルクスの咽喉の入口」に置き、プラウトゥスは不吉な家を「オルクスの門」と呼ぶ。ルクレティウス、アプレイウス、アルノビウスもこの比喩を受け継いだ。地下世界を、閉じ込める場所ではなく呑み込む口として捉える発想である。

なお、タルクィニアの「オルクスの墓」は近代の誤称による。発見者が壁に描かれた毛深い巨人をオルクスと見誤ったもので、実際にはキュクロプスを描いたものである。

系譜と関係

系譜はプルートーから移されたものにすぎず、オルクス本来のものではない。エトルリアの冥界神は本来マントゥスであり、セルウィウスは「エトルリアの言葉ではディス・パテルをマントゥスと呼ぶ」と記す。エトルリアの冥界の鬼神のうち、槌を手にするカルンを後代の語彙集がオルクスと同一視しており、「オルキーニー」の議員たちが「カローン輩」とも呼ばれたことと響き合う。

セルウィウスは、オルクスとケレースのために営まれた「オルクスの婚礼」という祭を伝える。葡萄酒の使用が禁忌とされる厳格な儀で、神祇官が列席して盛大に行われたという。ただしその古さには疑いがあり、ポエニ戦争の直前に導入されたギリシア風の女性祭祀の一部と見る説、あるいは端的にプルートーとプロセルピナの結婚のギリシア的な祭にすぎないとする説が出されている。

文化的足跡

後世への影響は、神格そのものよりも名において大きい。イタリア語のオルコ(人食い鬼)はこの名に由来し、古英語の orc(『ベーオウルフ』の orcnēas)も同語源と見られている。トールキンはこの古英語の語を採ってオークの名とした。現代の創作に無数に現れる怪物の名が、祀られた痕跡をほとんど持たないローマの神に発していることになる。ボマルツォの「聖なる森」に彫られた巨大な口の岩は「オルコの口」と呼ばれ、オルクスの咽喉という古代の形象が十六世紀の庭園に姿を変えて現れている。

02

領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
ディス・パテル ローマ神話 同一視
エンニウス訳『エウヘメルス』の「プルートーンはラテン語ではディス・パテル、ある者はオルクスと呼ぶ」、アウグスティヌス『神の国』の「ディス・パテル、すなわちオルクス」など。共和政期以降、三つの名は交換可能に用いられた。
プルートー ローマ神話 同一視
ウァッローはオルクスをプルートーの系譜(サートゥルヌスの子、プロセルピナの略奪者)に当てはめた。ただし詩語としては、冥界の君主プルートーに対し死を執行する側という語感の差が残る。

親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承点線=異伝・別系統

ORCUS
オルクス
ローマ神話
Nox
配偶者
収載データなし
ORCUS
オルクス
ローマ神話
Nox
配偶者
収載データなし
フル系図ページを開く →
04

資料

Wikidata
Q860314 — 骨格データの出典
Commons
Orcus — 図像カテゴリ