ミュルティロス
ミュルティロス · ミルティロス · Myrtilos
オイノマオスの御者。ペロプスに買収されて車軸に細工し、報酬を求めて海に落とされ、一族に呪いをかけた。
解説
概要
ミュルティロス(Μυρτίλος / Myrtilos)は、ピーサ王オイノマオスの御者である。ヘルメースの子とされる。
彼が果たす役割は二つある。王の戦車に細工してペロプスの勝利を可能にすること、そして殺されて一族に呪いをかけることである。物語のなかで自ら望んだものは何一つ得ていない。それでも彼の呪いは、アトレウス家三代の破滅を説明する根拠として置かれ続けた。
神話・物語
オイノマオスは求婚者に戦車競走を課し、敗れた者を殺していた。ペロプスが挑んだとき、彼は車軸の留め金を蝋で作ったものに取り替える。走行中に蝋が溶け、車輪が外れて王は死んだ。
細工を承知した理由は資料で分かれる。ペロプスに買収され、王国の半分か初夜の権利を約束されたとする版と、ヒッポダメイア自身に恋しており、彼女の頼みに応じたとする版がある。前者では取引、後者では片思いが動機になる。
競走の後、彼は約束の履行を求めた。あるいはヒッポダメイアに手を出そうとしたともいう。ペロプスは彼を岬から海へ突き落とす。落ちながら彼はペロプスとその子孫に呪いをかけた。この海はミュルトーオン海(ミルトア海)と呼ばれるようになったと伝えられる。
父ヘルメースは息子の亡骸を引き上げ、天に上げてぎょしゃ座としたという。オイノマオスもまた、死の際に彼が主人の手にかかって死ぬよう祈っており、二重の呪いが交差する形になっている。
彼の呪いは、アトレウスとテュエステースの争いからアガメムノーンの殺害、オレステースの母殺しに至る連鎖の説明として引かれる。ただし呪いを一族の破滅の原因とする語り方は後代のものであり、アイスキュロスは彼の名を出さない。悲劇が扱ったのは個々の行為の応報であって、遠い過去の呪いではなかった。
図像と象徴
本ページの主画像はエトルリアの骨壺の浮彫(ヴォルテッラ、グアルナッチ美術館 MG215)で、海へ突き落とされる彼を描く。エトルリアの骨壺は同じ主題を繰り返し取り上げており、裏切りと報いという筋が葬礼の文脈で選ばれたことがわかる。
ギリシア本土の陶画では、この場面はほとんど描かれない。戦車競走の図像に御者として加わることはあるが、名の銘を伴う例は少ない。
系譜と関係
父ヘルメース、母はニュンペーのプリュメーレー、テオボレー、クレオブーレーなど資料によって異なる。
彼を天に上げてぎょしゃ座としたという伝えのほか、ぎょしゃ座をエリクトニオスとする説も並び立つ。星座の由来としては後者が優勢である。
文化的足跡
エーゲ海南西部の海域を指すミュルトーオン海の名は、彼に由来するとされる。ただしミュルトー島(現在のミルトス島)から来たとする説もあり、地名が先か人名が先かは定まらない。アイゲウスとエーゲ海の関係と同じく、海の名を説明するために死が用意された可能性がある。