エリクトニオス
エリクトニオス · エリクトニウス · Erichthonius
アテーナーの腿にかかったヘーパイストスの精から大地が生んだアテーナイの王。籠に入れられ蛇を添えてケクロプスの娘たちに預けられたが、開けた二人は狂って身を投げた。アテーナイ人の「土地生まれ」の主張の根拠。
解説
概要
ギリシア神話において、エリクトニオス王(Erichthonius)は古代アテーナイの伝説上の初期の支配者であった。一部の神話によれば、彼は土地生まれ(大地から生まれた)であり、女神アテーナーによって養育された。
初期のギリシアの文献は彼とその孫エレクテウスを区別しないが、前4世紀の古典期には別の人物とされている。
神話・物語
ヘーパイストスがアテーナーに欲情し、追いかけた。処女神は逃れたが、ヘーパイストスの精がその腿にかかった。アテーナーは羊毛でこれを拭って地に捨てた。大地(ガイア)がこれによって身ごもり、エリクトニオスが生まれた。
名は「エリオン」(羊毛)と「クトーン」(大地)に由来するとする古代の語源説がある。ただし現代の言語学はこれを民間語源とみる。
アテーナーは子を籠に入れ、蛇を添えて、ケクロプスの三人の娘——アグラウロス、ヘルセー、パンドロソス——に預け、決して開けてはならないと命じた。しかし二人が籠を開け、蛇に巻きつかれた子を見て、狂ってアクロポリスの崖から身を投げた。
成長したエリクトニオスはアテーナイの王となり、女神アテーナーの祭祀を定め、パンアテーナイア祭を創始した。また四頭立て戦車を発明したとされ、死後は御者座(アウリガ)となった。
アテーナイの自生神話
アテーナイ人は自らを「土地生まれ」(アウトクトーン)と称し、他の土地から移住した者ではないと主張した。エリクトニオスの物語は、この主張の根拠である。
アテーナイの市民は、大地から生まれた王の裔として、その土地に固有の民であることを誇った。政治的な自己認識が、神話によって支えられている。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エリクトニオスの誕生を描いた壺絵である(ミュンヘン国立古代美術博物館蔵 2413)。ガイアが地中から子を差し出し、アテーナーが受け取る場面である。
蛇の姿——あるいは下半身が蛇——として表されることがある。土地生まれの者の徴である。
関わる神格・伝承
養母はアテーナー。孫はエレクテウス。ケクロプスの娘たちに預けられた。
文化的足跡
エレクテイオン(アクロポリスの神殿)は、エレクテウスあるいはエリクトニオスに捧げられたとされ、アテーナイの自生神話の中心にある。