マカラ
摩伽羅 · 摩竭魚 · チュ・シン
インド神話の水棲の霊獣。ワニ・象・魚などを合わせた複合の姿をもち、河の女神ガンガーや水神ヴァルナの乗騎、愛神カーマデーヴァの旗印とされる。寺院の門を守る意匠として無数に刻まれた。
解説
概要
マカラはヒンドゥー神話に登場する水棲の霊獣で、サンスクリットで「海の獣」「水の怪」を意味する。単一の動物ではなく、合成獣——ワニの顎、象の鼻、魚や孔雀の尾など、複数の動物を組み合わせた姿で表される。水そのものの豊穣と、境界を守る力を体現し、神話の主役というよりも、神々を運び、聖域を守る存在として遍在する。占星術では黄道十二宮の磨羯宮(山羊座)に配される。
登場する物語
マカラは特定の英雄譚の主役ではなく、水の神格に付き従う姿で神話に現れる。河の女神ガンガーと水神ヴァルナの乗騎(ヴァーハナ)であり、両神はしばしばマカラの背に乗って描かれる。また愛神カーマデーヴァの旗にはマカラが描かれ、この神は「マカラを旗印とする者」(マカラドヴァジャ)とも呼ばれる。叙事詩マハーバーラタでは、水棲の生き物の筆頭としてマカラの名が挙げられ、水界の王者と位置づけられる。仏教に取り込まれてからは護法の意匠となり、菩薩の前世を描く物語にもその姿が見える。
図像と象徴
マカラの造形は一定しない。ある寺院建築家は、魚の胴・象の鼻・獅子の脚・猿の眼・猪の耳・孔雀の尾をもつ獣と説いた。前半をワニや象などの陸獣、後半を魚や蛇などの水獣とする「半陸半水」の形が基本で、陸と水の結合そのものを表す。建築ではとりわけ重要で、門や龕の上に半円を描く「マカラ・トーラナ」(マカラ門)として、口から装飾やナーガを吐き出す形で刻まれる。階段の手すりや壁面を連なって走り、泉の吐水口にもなる。マカラをかたどった耳飾りマカラクンダラは、シヴァ・ヴィシュヌ・太陽神スーリヤら神々の像が身につける。
関係する神格
マカラを乗騎とするのは、河の女神ガンガー、同じく河の女神ナルマダー、そして海と水を司る神ヴァルナである。いずれもマカラを介して水界と結びつく。愛神カーマデーヴァは旗印としてこれを負い、幸運の女神ラクシュミーが象の姿をしたマカラとともに描かれる図もある。ヴィシュヌ信仰が広まったカンボジアなどでは、マカラはしばしばヴィシュヌと結びつけて表された。
文化的足跡
マカラの意匠はインドを越え、東南アジアのヒンドゥー・仏教遺構に広く伝播した。クメールやジャワの寺院、チベット・ネパールの荘厳にその姿を認めることができ、地域ごとに海龍や水の守り手として造形を変えた。門を守る獣という性格から、後世の装飾美術にも受け継がれている。現代のゲームや創作でも、水棲の幻獣や星座「山羊座」の意匠として、マカラの名が引かれることがある。