マーフ
マオンハ · マーオ · マーハ
ゾロアスター教の月神。アヴェスター語では男性名詞で、原初の牛の種を託された者とされる。三日月はパルティア朝・サーサーン朝を通じて王権の標識でもあった。
解説
概要
マーフ(中期・新ペルシア語 māh)は、ゾロアスター教の月神である。アヴェスター語ではマオンハ(måŋha)といい、「月」と「ひと月」の双方を意味する。イラン語ではこの語は男性名詞であり、神格も男性として扱われる。英語 moon と同じ印欧祖語 *mēns に遡る。
アヴェスターのなかで大きな位置を占める神格ではない。それでも、三日月はパルティア朝からサーサーン朝にかけて王権の重要な標識であり続けた。
神話・物語
月に捧げられた讃歌は二つある(第三ニヤーイシュとヤシュト第7)が、そこで語られるのはむしろ物理的な月であって、満ち欠けが詳しく述べられる。満ち欠けを起こすのはアフラ・マズダーであり、アムシャ・スプンタが月の光を地上に等しく配り、フラワシが月と星を定めの軌道に保つ。太陽・月・星は世界の中心の山ハラ・ベレザイティの頂を巡る。
月は「与える者、輝ける者、水を有し、熱を有し、知を有し、富と識別と癒しを有する者」と讃えられ、春には草木を地から生い立たせるとされる。
繰りかえし語られるのは、月が原初の牛のキフル(種)を有するという句である。この背景にある物語を詳しく伝えるのは『ブンダヒシュン』である。アフリマンが原初の淫婦ジャヒー(ジェフ)をそそのかして原初の牛ガウ・アエーウォーダータを殺させたとき、瀕死の獣からキフルが救い出され、月に託された。それが動物界のあらゆる生き物の原型となったという。月は、死んだものから生きるものを取り出して保管する器として置かれている。
図像と象徴
ヘロドトスは、小アジアに住むイラン人の守護神が月であったと記す。クシャーン朝の貨幣にはミスラと並んで月神が打たれている。
本サイトが主画像に掲げるのは、ソグドの都パンジケント(現タジキスタン)の壁画である。赤い円光を負い、その内側の左上に白い三日月を配した神像を描く。7世紀末から8世紀初の作で、月神マーフとみられている。ただしイラン語で月が男性名詞であるのに対し、この図像は女性として造形されており、同定と性別の関係については議論がある。中央アジアのソグド人が、イランの神格を独自の図像で表していたことを示す資料でもある。
系譜と関係
ヤザタの階梯ではウォフ・マナフの助力者(ハムカール)とされる。ウォフ・マナフが家畜を守ることと、月が原初の牛の種を託されたことが対応している。暦では各月の第12日を司る。
文化的足跡
新ペルシア語のマーフは今日も「月」と「ひと月」の両方を意味し、イラン暦の月名を数えるときの語基となっている。