ガウ・アエーウォーダータ
ガヴ・アエウォダータ · ガウ・イ・エーウダード · ゲーウシュ・ウルワン
ゾロアスター教の創世神話に語られる原初の牛。「唯一のものとして創られた」を名とし、殺されたその体から、有益な動物のすべてが生じたとされる。
解説
概要
ガウ・アエーウォーダータ(アヴェスター語 gav-aēvō.dātā)は、ゾロアスター教の宇宙開闢に語られる原初の牛である。名の後半は文字どおり「唯一のものとして創られた」を意味する。アフラ・マズダーの六つの物質の被造物のひとつで、有益な動物のすべての祖とされる。
アヴェスター語のガウは文法上女性だが、集合としての「家畜」も指すため、訳では性を定めず「原初の牛」とされることが多い。
登場する物語
創世の物語のなかで、この獣は殺される。だがその骨髄と諸器官とキフル(種)から、世界は動物の生で満たし直された。魂ゲーウシュ・ウルワンは、家畜の魂として世界に戻ったとされる。もっとも、この獣と「牛の魂」との関係が明確になるのは中期ペルシア語文献においてで、古い層ではその結びつきは判然としない。
殺したのは女魔ジャヒーであると、『ウェンディーダード』が間接的に伝える。瀕死の獣からキフルが救い出され、月マーフに託された。「家畜のキフルを内に保つ月」はマーフの定型の添え名であり、暦の讃歌でもこの獣は月に捧げられた詩節のなかで呼ばわれる。
現存するアヴェスターにこの名が現れるのは二つの讃歌にすぎない。原初の牛の神話が全容を見せるのは、9世紀から11世紀の中期ペルシア語文献においてである。
牛の嘆き
『ガーサー』には「牛の嘆き」と呼ばれる寓意的な一篇がある。牛の魂が、虚偽の力に委ねられた自らの境遇と、まともな牧者のいないことを嘆く。神々は評議し、ザラスシュトラだけがこれを救いうると決める。魂ははじめ、その預言者を無力とみていっそう嘆く。だが最後には、その助けを受け入れる。
この牛が原初の牛であるかどうかは、古い文献からは決められない。虐げられた獣をザラスシュトラの共同体の境遇の象徴と読み、その魂を預言者が受け取った教えの比喩と読む解釈が提出されている。神話の一場面としてよりも、共同体の自画像として読まれてきた一篇である。
図像と象徴
この獣を表した古代の造形は伝わらない。牛の像そのものは古代イランに数多いが、それらをこの獣と同定できる根拠はない。
関わる伝承
原初の存在を殺して世界の素材とする型は、北欧のユミルやヴェーダのプルシャと比較される。イランの場合、原初の牛と原初の人ガヨーマルトが対をなし、前者から動物が、後者から人が生じるという対称が組まれている点に特徴がある。北欧の原初の牝牛アウズンブラとしばしば並べられるが、あちらは殺されずに養う側にあり、役どころは異なる。