ジャヒー
ジェフ · ジェー · ジャヒ
ゾロアスター教の女魔。放縦を体現し、アフリマンを奮い立たせて世界への攻撃を促した者として語られる。原初の牛を殺したのもこの女魔とされる。
解説
概要
ジャヒー(アヴェスター語 jahī)は、ゾロアスター教の女魔である。放縦を体現する存在として、「淫婦」を定型の添え名とする。中期ペルシア語ではジェフ。パフラヴィー語文献ではアンラ・マンユ(アフリマン)の配偶者とされる。
神話・物語
アヴェスターにおけるこの女魔は、断片的に現れる。神酒ハオマへの讃歌は、ハオマの供物を貪り坐す穢れた者の誘惑を退けよと説く。真理アシャへの讃歌は、聖なる言葉マンスラ・スプンタをこれに対する効き目のある手立てとする。報いの女神アシへの讃歌では、アシがこの女魔のふるまいによって受ける恥を嘆く。『ウェンディーダード』は、アフラ・マズダーにもっとも深い悲しみを与える者と記し、その眼差しが世界の三分の一から色を奪うと述べる。同じ書には、原初の牛ガウ・アエーウォーダータを殺した者としての役割への間接的な言及もある。
まとまった物語を与えるのは『ブンダヒシュン』である。宇宙の第二の三千年紀の終わり、アフリマンは配下の魔たちの勧めにも動かず、無力のうちに沈んでいた。これを奮い立たせたのがこの女魔であった。オフルマズドの被造物を滅ぼしてみせると約したその言葉に、アフリマンは接吻をもって応じる。世界への攻撃はここから始まった。
図像と象徴
この女魔を表した古代の造形は伝わらない。悪の側を像として定着させることに、ゾロアスター教の美術は概して積極的ではなかった。
関わる存在
アフリマンの側にあり、その配偶者とされる。原初の牛の殺害者であり、マーフがその種を託される物語の前提をなす。世界への攻撃を促した者として、創世の筋のなかで転換点に置かれている。
文化的足跡
この女魔の物語は、月経を不浄とみる清浄規定の教義上の由来として語られてきた。近代以降、この規定と物語をどう位置づけるかは、ゾロアスター教徒の共同体の内外で議論の対象となっている。なお、日本語圏の一部の事典類には、この女魔をアフリマンの母とする記述や、太母神の零落として説明する記述が見られるが、いずれもアヴェスターおよびパフラヴィー語文献の記述に直接の根拠を求めがたい。