エウマイオス
エウマイオス · Eumaios · Eumaeus
オデュッセウスに仕えた豚飼い。帰還した主人を最初に迎え、正体を知らぬまま手厚くもてなした忠実な奴隷。
解説
概要
エウマイオス(Εὔμαιος / Eumaeus)は、オデュッセウスに仕えた豚飼いである。名は「よく探し求める者」と解される。二十年の不在のあいだ主家の財産を守り続け、物乞いに変装して帰還した主人を最初に迎え入れた。
『オデュッセイア』において、ホメーロスがアポストロペー——語り手が物語の途中で登場人物に直接呼びかける技法——を用いる唯一の人物である。奴隷でありながら、詩人が名指しで語りかける相手として遇されている。
神話・物語
もとは奴隷ではない。シュリエー島(現在のシロス島)の王クテーシオスの子であった。幼いころ、彼を可愛がっていたポイニーケー人の下女がいた。この女はもとシドンの裕福な家の娘で、タポスの海賊にさらわれて島で売られた身である。島を訪れたポイニーケーの商人と密通した彼女は、故郷へ帰るための船賃代わりに幼いエウマイオスを連れ去った。女は航海の途中でアルテミスに射られて死に、船はイタケーへ着く。そこでオデュッセウスの父ラーエルテースが少年を買い取った。
王家では、ラーエルテースの妻アンティクレイアによって娘クティメネーとほぼ同じ扱いで育てられた。オデュッセウスも召使いのなかでとりわけ彼を可愛がったという。長じて王家の豚の世話を任される。
その仕事ぶりは詳しく描かれる。主人の留守中、彼は誰の手も借りず、自ら切り出した石で豚のための中庭を築いた。垣の上に棘の灌木を並べ、外側には樫を削った杭をびっしり立てる。垣の内には十二の豚小屋を建て、牝豚を五十頭ずつ、合わせて六百頭を飼った。牡豚は外に置いたが、求婚者たちの饗宴のために毎日最良のものを届けさせられて数を減らし、三百五十頭しか残っていない。四頭の猛犬に群れを守らせてもいた。主人の不在が家をどれほど損なっているかが、豚の頭数という具体で示されている。
イタケーに戻ったオデュッセウスが最初に出会うのが、この豚飼いである。相手が誰か分からぬまま——主人は変装している——彼は食事と寝床を与えた。理由をこう述べる。「客人を守るゼウスを恐れ、あなたを憐れむからだ」。もてなしの掟(クセニアー)を守る者として造形されている。
しかし主人の帰還を告げる言葉は信じない。オデュッセウスが「じきに帰る」と請け合っても、そうした話は不在の二十年に何度も聞かされ、アイトーリアから来た者に一度騙されてもいるからである。「偽りで私の心を慰めようとするな」と彼は言う。オデュッセウスが「外れたら崖から突き落とせ」と賭けを持ちかけると、彼はこう答えた——それは立派なことでしょうな、まず小屋へ迎え入れ、客としてもてなし、それから殺して命を奪う。そのあと私は上機嫌でゼウスに祈ればよいわけだ。現存する文学のなかで最も古い皮肉(サルカズム)の例として、しばしば引かれる一節である。
テーレマコスがピュロスとスパルタの旅から戻ったときも、まずこの小屋を訪れた。エウマイオスは父のように青年を抱き、留守中の心配と無事を喜ぶ。ホメーロスは「遠い国から十年ののちに帰った一人息子を、愛する父が抱くように」という直喩を添えた。そのとき変装した実の父が同じ小屋に座っている。読者だけがそれを知っている。
求婚者たちを討つ場面では、牛飼いピロイティオスとともに、テーレマコスとオデュッセウスに加勢した。
図像と象徴
エウマイオスを名指した古代の作例は知られていない。オデュッセウスの帰還を扱った図像は、求婚者の殺戮や乳母エウリュクレイアによる足の傷の発見を選ぶのであって、豚飼いの小屋が主題となることはなかった。本項では主画像を置いていない。
彼の小屋は、『オデュッセイア』の後半で舞台として繰り返し用いられる。宮殿と対をなす場所であり、王が王でいられない場所である。図像が求めるのは劇的な瞬間であって、こうした場の性格ではない。
系譜と関係
父はシュリエー島の王クテーシオス、その父はオルメノス。育ての家はオデュッセウスの王家で、ラーエルテース、アンティクレイア、クティメネーとともに育った。テーレマコスとは擬似的な父子の関係に置かれる。主家の犬アルゴスも彼の管理下にあったが、その荒廃を嘆きながら手を尽くせずにいる姿が語られる。
文化的足跡
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』の第十六挿話は「エウマイオス」と題され、深夜の馭者溜まりを舞台とする。物語の主人公が疲れ切って腰を落ち着ける場所として、この豚飼いの小屋が選ばれた。ジョイスがこの人物に見たのは、忠誠よりもむしろ、話し込む場所を提供する者という役割であった。木星のトロヤ群小惑星エウマイオスにもその名が与えられている。