トリプトレモス
トリプトレモス · ブーズュゲース · Triptolemus
エレウシースの英雄。デーメーテールに教えられて最初に種を蒔き、翼ある蛇の牽く車で世界に穀物を広めた。エレウシースの秘儀の中心にある。
解説
概要
トリプトレモス(Τριπτόλεμος)は、エレウシースの英雄である。ブーズュゲース(「牛を軛につなぐ者」)の名でも知られる。
エレウシースの秘儀の中心にあり、農耕の発明者にして守護者として崇められた。デーメーテールに教えられて最初に種を蒔いた者とされ、牛と犂の使用もこの人物に帰される。
神話・物語
デーメーテールとの出会いは、娘ペルセポネーの捜索の途上である。
ドーソーという名の老女に身を変えて娘を探していたデーメーテールは、エレウシース王ケレオスから手厚くもてなされた。王は、妃メタネイラとのあいだの子デーモポーンとトリプトレモスの養育を頼む。
デーメーテールはトリプトレモスが病んでいるのを見て、自らの乳を与え、火の熾火の下に置いた。これによって力を取り戻したばかりか、たちまち成長したという。
そののち女神は、翼ある蛇に牽かれる車をこの若者に与え、世界中に穀物の種を蒔かせた。クセノポーンはペロポネーソスが最初の地だとし、パウサニアースはエレウシース近郊のラリオンの平野だとする。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、アッティカ赤絵式の壺絵である(アバディーンの画家、ルーヴル美術館蔵 G452)。トリプトレモスとコレー(ペルセポネー)を描く。
図像は定型化されている。枝あるいは冠を髪に飾った若者が、蛇で飾られた車に坐す。持物は穀物を盛った皿、麦あるいは大麦の穂、そして笏である。
車が蛇に牽かれるという点が特徴的である。蛇は大地と結びつく動物であり、地中から現れる。穀物を運ぶ車がこれに牽かれるという造形は、農耕の恵みが地下から来るという理解を示す。
エレウシースの秘儀において、この人物は入信者に穀物を渡す者の位置に置かれた。秘儀の内容は口外を禁じられていたため詳細は不明だが、図像にはこの場面が繰り返し現れる。
関わる神格・伝承
父はケレオス、母はメタネイラ、兄弟はデーモポーン。デーメーテールとペルセポネーに仕える。
エレウシースの祭司の家系エウモルピダイは、エウモルポスを祖とする。トリプトレモスとエウモルポスは、いずれもエレウシースの秘儀の起源に関わる人物であり、しばしば並べて語られる。
文化的足跡
穀物を人にもたらした者という位置は、各地の文化英雄と共通する。ただしトリプトレモスの場合、それが秘儀という宗教制度と直結している点が特徴的である。農耕の伝授と入信の儀礼が、同じ人物によって担われている。
日本語圏では、エレウシースの秘儀そのものが紹介される機会に乏しく、この人物の名が挙げられることはまずない。デーメーテールとペルセポネーの物語は広く知られるが、その物語が同時に秘儀の起源譚であるという側面は伝わりにくい。