グラニ
グラネ · グラーネ · Grani
シグルズの馬。スレイプニルの血を引き、オーディンの助言によって選ばれた。北欧の図像では、櫃を背負う馬を描くだけでこの馬を表すのに十分であった。
解説
概要
グラニ(古ノルド語 Grani、グラネとも)は、北欧神話の英雄シグルズの馬である。
オーディンの助言によって選ばれ、オーディン自身の馬スレイプニルの血を引く。
登場する物語
『ヴォルスンガ・サガ』第13章が、その選定を語る。
馬を選ぼうとして森へ向かうシグルズは、道中で見たことのない長い髭の老人に出会う。事情を話して助言を求めると、老人は馬をブシルティョルンの川へ追い込めと言った。二人が馬の群れを深みへ追い込むと、すべての馬が岸へ泳ぎ戻ったが、一頭だけ残った。大きく若い灰色の馬で、まだ誰も乗ったことのないものである。
老人は言った——この馬はスレイプニルの血筋であり、注意深く育てるがよい、あらゆる馬のうちで最良のものとなろう。そう告げて老人は姿を消した。シグルズはこの馬にグラニと名づける。物語は、老人がほかならぬオーディンであったと記す。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、フェロー諸島の記念切手に描かれた剣グラムとグラニの図である(2000年、アンケル・エリ・ペーターセン画)。
古い図像は、シグルズ石と呼ばれる一群のルーン石に残る。竜殺しの物語を刻んだ石で、スウェーデンのセーデルマンランド地方ゴークにある Sö 327 の刻文などが知られる。
北欧の図像において、櫃を背負う馬を描くだけでグラニを表すのに十分であった。シグルズがファフニールを討ったのち、その財宝を運ぶ場面である。「グラニの美しき荷」という詩のケニングが、この図柄が広く共有されていたことを裏づける。
一頭の馬が、財宝という一語に置き換わる。ケニングと図像が同じ連想の上に成り立っていることを示す例である。
関わる神格・伝承
主はシグルズ。父方の血筋はスレイプニル。選定に関わったのはオーディンである。
北欧の英雄伝説において、名を持つ馬は少なくない。オーディンのスレイプニル、フレイのブローズグホーヴィ、フルングニルのグルファクシ。いずれも主の性格を映す存在として描かれる。
文化的足跡
リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』では、この名(グラーネの形)がブリュンヒルデの馬に与えられた。
ヘンリック・イプセン『ペール・ギュント』では、主人公が死の床の母オーセを慰めるため、グラーネという馬に牽かせた想像上の橇に乗る。聖ペテロに会いに行くのだと語る場面である。
英雄の馬の名が、19世紀の楽劇と戯曲に別々の形で受け継がれた。北欧の英雄伝説が近代ヨーロッパにどう流れ込んだかを示す小さな例といえる。