ゲルズ
ゲルド · ゲルザ · ゲルド (北欧神話)
北欧神話のヨトゥンにして女神。フレイが遠くから見初め、従者スキールニルの脅しによって婚姻に応じた。名は「垣で囲まれた」を意味する。
解説
概要
ゲルズ(古ノルド語 Gerðr、「垣で囲まれた」)は、北欧神話のヨトゥンにして女神であり、豊穣神フレイの妻となった。
『古エッダ』『散文のエッダ』『ヘイムスクリングラ』、そしてスカルド詩に言及がある。父はギュミル、母はヨトゥンのアウルボザである。
大地に関わる女神とする説が広く行われている。
神話・物語
『古エッダ』の『スキールニルの言葉』が中心の典拠である。
フレイが高座フリズスキャールヴに坐して全世界を見渡していたとき、一人の美しい娘が父の館から倉へ歩いていくのを見た。フレイはたちまち恋の病に落ちる。従者スキールニルが事情を尋ね、フレイは、ギュミルの家で腕を輝かせた驚くべき娘を見たこと、しかし神々もアールヴもこの縁組を望まないことを打ち明けた。
スキールニルは馬と、ヨトゥンと独りで戦う剣を求め、闇に紛れてヨトゥンヘイムへ向かう。ゲルズは当初これを拒んだが、スキールニルが次々に呪いを並べ立てて脅したため、ついに折れた。『散文のエッダ』では脅しへの言及がない。
いずれの資料でも、ゲルズはバッリという場所で定められた時にフレイと会うことに同意する。スキールニルが返事を持ち帰ると、フレイはその日がもっと早く来ないことを嘆いた。
『ヘイムスクリングラ』では、フレイはスウェーデンの敬愛された王として人間化されており、ゲルズはその妻とされる。二人はユングリング家の祖であり、子フィヨルニルはフレイの死後に王となって血統を継いだ。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、W・G・コリングウッドの挿絵《スキールニルのゲルズへの伝言》である(オリーヴ・ブレイ訳『古エッダ』1908年)。
名が「垣で囲まれた」を意味することが、この女神の性格をめぐる議論の出発点である。囲われた土地——耕地——を指すとみて、大地の女神と解する読みが広く行われてきた。フレイが豊穣神であることも、この読みを支える。神と大地の婚姻として、この物語を農耕儀礼に結びつける解釈もある。
一方で、脅しによって同意させられるという筋を、そうした牧歌的な解釈から切り離して読むべきだとする立場もある。『スキールニルの言葉』の呪いの言葉は、北欧の詩のなかでも際立って苛烈である。
関わる神格・伝承
夫はフレイ、父はギュミル、母はアウルボザ。子はフィヨルニル。
ヨトゥンでありながら神々の側に嫁ぐという構図は、スカジやヨルズとも共通する。北欧神話において、アース神族とヨトゥンの関係は敵対だけで成り立っていない。婚姻を通じた結びつきが、系譜のいたるところに現れる。
文化的足跡
『スキールニルの言葉』は、北欧の詩のなかでも解釈の分かれる作品である。求婚の使者が呪いによって相手を屈服させるという筋をどう読むか——豊穣儀礼の反映とするか、それとも別の何かとするか——は、今日まで議論が続いている。
日本語圏では、フレイの妻として名が挙げられる程度である。しかしこの一篇が提起する問題は、北欧神話をどう読むかという方法の問題そのものに関わっている。