フリッグの侍女たち
フリーン · ロヴン · シェヴン
スノッリ『新エッダ』が列挙するフリッグに仕える女神たちのうち、名と一行の説明のみが伝わる七柱——フリーン・ロヴン・シェヴン・スノトラ・シュン・ヴァール・ヴォル。詩の言い換えから神格が推定された可能性が指摘される。
解説
概要
『新エッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」第三十五章は、フリッグに仕える、あるいはアース女神族に数えられる女神たちを列挙する。
そのうち、他の資料にほとんど現れず、名と一行の説明のみが伝わる女神が複数ある。本項はこれらを一括して扱う。個別の記事を立てるに足る伝承が残らないためである。
個々の女神
フリーン(Hlín)。 フリッグが危険から守ろうとする者を保護する女神。「フリーンに守られる」は逃れることを意味する。『巫女の予言』にも名が現れるが、そこではフリッグ自身の別名とする解釈がある。
ロヴン(Lofn)。 穏やかで優しく、オーディンとフリッグの許しを得て、禁じられた婚姻をも取りもつ女神。名は「許し」「慰める者」を意味するとされる。
シェヴン(Sjöfn)。 人の心を愛へ向ける女神。男女の思いを互いに向けさせる。名は愛情を意味する語と関係する。
スノトラ(Snotra)。 賢く節度ある女神。賢明な男女を「スノトル」と呼ぶのはこの名による。名は「賢い」を意味する。
シュン(Syn)。 広間の扉を守り、入るべきでない者に閉ざす女神。また訴訟において否認の証人となる。名は「否認」を意味する。
ヴァール(Vár)。 誓いと契約の女神。男女が交わす誓いを聞き、これを破る者を罰する。名は「誓い」あるいは「愛される者」を意味する。
ヴォル(Vör)。 慎重で探究する女神。何ごとも彼女から隠すことはできない。名は「用心深い者」を意味する。
性格
いずれも抽象概念の名を持ち、その概念が女神として置かれている。スノッリが既存の詩語(ケニング)から女神の一覧を再構成した可能性が指摘されている。
すなわち、詩において「ヴァールの誓い」のような表現が用いられ、そこから女神ヴァールが存在するとスノッリが推定した——という順序である。詩の言い換えが、神格を生んだ。
一方で、これらの名が古い信仰の断片を保存しているとする説もある。ヴァールとシュンには、法的手続きに関わる具体的な職能があり、単なる詩語の敷衍とは考えにくい。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
フリッグに仕える。同章にはエイル、サガ、ゲフィオン、フッラ、グナーも挙げられる。
文化的足跡
これらの名は、今日もスカンディナヴィアの女性名として用いられている。