オーズ
オード · オズ · オーズル
フレイヤの夫。長い旅に出て帰らず、フレイヤは赤い黄金の涙を流した。黄金を「フレイヤの涙」と呼ぶケニングはこれに由来する。オーディンのヒュポスタシスとする説がある。
解説
概要
オーズ(古ノルド語 Óðr、「心」「知」「魂」「感覚」あるいは「熱狂する者」)は、北欧神話の神である。欲望、情熱、霊感に結びつけられる。
13世紀にスノッリ・ストゥルルソンが著した『散文のエッダ』と『ヘイムスクリングラ』は、いずれもこの神をフレイヤの夫、フノスとゲルセミの父、そしてヴァン神族の一員と記す。
オーディンのヒュポスタシス(位格)であるとする説が、両者の類似から繰り返し提出されてきた。
神話・物語
伝えられるのは、去るという一点である。
オーズは長い旅に出て帰らず、フレイヤはその不在を嘆いて赤い黄金の涙を流した。この涙が黄金の由来とされ、詩において黄金は「フレイヤの涙」と呼ばれる。フレイヤは夫を探して諸国を巡り、そのたびに異なる名を名乗ったという。
夫を求めて旅する女神という筋は、他の物語にも現れる。ただし北欧の資料は、オーズがなぜ去ったのか、どこへ行ったのかを記さない。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、1882年刊のドイツの書物に載る挿絵である。「オーズはふたたび嘆く妻を去る」と題され、フレイヤを残して去る場面を描く。作者は明示されていない。
名が意味するところが、この神の性格を規定する。古ノルド語のオーズは「心、知、魂、感覚」を意味すると同時に「歌、詩」をも意味する名詞であり、ゲルマン祖語 *wōðaz——「憑かれた、霊感を受けた、錯乱した、荒れ狂う」を意味する形容詞の名詞化——に遡る。古英語 wōð(「音、声、歌」)、古高ドイツ語 wuot(「戦慄、激しい動揺」)、中期オランダ語 woet(「激怒、狂乱」)と同源である。
オーディンの名も同じ語幹に由来する。*wōđa- に接尾辞 *-naz(「〜の主」)が付いた形である。文献学者ヤン・デ・フリースは、オーズとオーディンがもともと連続した神格であり、オーズ(*wōđaz)のほうが古い形で、オーディンの名の源であると論じた。さらに彼は、怒りの神オーズ=オーディンが栄光の神ウル=ウリンと対立する構図を、ヴェーダにおけるヴァルナとミトラの対比になぞらえている。
関わる神格・伝承
妻はフレイヤ、子はフノスとゲルセミ。ヴァン神族に属する。
ウルとウリンという同種の対(同じ神格の二形態)が存在することが、オーズとオーディンの関係を考える手がかりとされてきた。名詞形と、それに「主」を意味する接尾辞を付した形——両者が別々の神格として並存しているという構図である。
文化的足跡
日本語圏では、フレイヤの夫として名が挙げられる程度である。しかし黄金を「フレイヤの涙」と呼ぶケニングは、この神の不在を前提としている。
去った夫を探して泣く女神という筋そのものは断片的にしか伝わらない。それでも詩の言い回しのなかに、その物語の痕跡が保存されている。ケニングが失われた神話を示す手がかりになるという、北欧詩学の性格をよく示す例である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。