ドゥーマーヴァティー
煙に覆われた者 · 寡婦の女神 · カラスの旗
マハーヴィディヤーの第七で、煙に覆われた者を意味する女神。十柱のうち唯一、配偶神をもたない寡婦の相とされている。
解説
概要
ドゥーマーヴァティー(Dhūmāvatī / धूमावती)は、マハーヴィディヤー(十大明妃)の第七に数えられる女神である。名は「煙に覆われた者」を意味する。十柱のうちただ一柱、配偶神をもたない寡婦の女神であり、老い、飢え、貧困、不吉といった、通常は避けられるものを司る。
神話・物語
由来を語る説話は、サティーをめぐるものである。夫シヴァとともにあったとき、彼女は激しい飢えを訴えて食物を求めた。何度も断られたため、ついに夫自身を呑み込んでしまう。驚いた夫が出てくると、彼女は自らの行いに気づく。夫は、寡婦の姿となって世に留まるがよいと告げ、こうして煙に包まれた老女の姿が生じたとされる。
別の伝えでは、シヴァの体を焼いた煙から生じたとする。いずれの版でも、生じたものが煙であるという点は共通する。
飢えが行為を生み、その行為が孤独を生むという構図をもつ。十柱のなかで唯一、夫をもたぬ相として置かれることが、この女神の位置を決めている。
図像と象徴
背が高く痩せた老女の姿で、白い髪を乱し、汚れた衣をまとい、歯が欠けていると説かれる。手には箕(み)を持ち、馬のいない車に乗る。旗印にはカラスが描かれ、あるいはカラスを乗騎とする。
象徴となるのは煙である。形をもたず、視界を遮り、しかし確かにそこにあるもの——欠如そのものが女神として立てられている。箕は穀物から籾殻を選り分ける道具であり、不要なものを取り除く働きを示すと解される。
系譜と関係
配偶神をもたない。マハーヴィディヤーの体系においては、富をもたらすカマラーと正反対の位置に置かれ、両者が一組の両極をなす。チンナマスターやバイラヴィーとともに恐るべき相に属するが、暴力ではなく欠如によって恐ろしいという点で、それらとも性格を異にする。
文化的足跡
礼拝の対象としては特異な位置にある。家庭の吉祥を願う祭祀からは遠ざけられ、主に苦行者や、不運と敵意を退けようとする者によって祀られてきた。ヴァーラーナシーのドゥーマーヴァティー寺院は数少ない主要な聖所であり、供物にも辛味の強いものが用いられるという。
不吉を女神として立て、これを避けるのではなく祀るという発想は、災厄そのものを神格化する南アジアの観念を端的に示す例として論じられてきた。ニルリティをはじめとする同型の神格と並べて扱われることが多い。