デアドラ
ディアドラ · 悲しみのデアドラ · Deirdre an Bhróin
アイルランド神話の悲劇の女性。生まれる前に災いを予言され、ノイシュと駆け落ちし、王の裏切りののち自ら命を絶った。
解説
概要
デアドラ(Deirdre、古アイルランド語 Derdriu)は、アルスター物語群の『ウシュネハの子らの流離』に語られる女性である。「悲しみのデアドラ」の名で呼ばれる。アメリカのケルト学者ジェイムズ・マキロップは2004年、近代においてアイルランド伝承で最もよく知られた人物だと評した。
神話・物語
彼女は王付きの語り部フェドリミド・マク・ダルの娘であった。生まれる前、コンホヴァル・マク・ネサの宮廷の主席ドルイドカフバズが予言する——この娘は比類なく美しく育つが、王侯はその娘をめぐって戦い、多くの血が流れ、アルスター最良の三戦士は彼女ゆえに国を追われるだろう。
赤子のうちに殺せと勧める者が多かったが、王はその美貌の話に心を動かされ、自らの妻とするために娘を家族から引き離した。詩人にして賢女のレヴォルハムに託され、人目を避けて森で育てられる。ある雪の日、鴉が獲物をくわえて雪に降りるのを見た彼女は、レヴォルハムにこう語った——鴉の羽のような髪、雪のように白い肌、血のように赤い頬の男を愛したい。
それはコンホヴァルの宮廷の若い戦士ノイシュのことだと乳母は答えた。レヴォルハムの手引きで二人は出会い、恋に落ちる。ノイシュはウシュネハの子である弟アルダンとアンレを伴い、デアドラとともにスコットランドへ逃れた。彼らはそこで狩りと漁の日々を送る。ロッホ・エティヴがその地の一つとして伝えられ、二人のあいだに息子ガイアルと娘アイヴグレネが生まれ、マナナン・マクリルに養われたとする稿本もある。
面目を潰された王は執拗に一行を追い、ついに居所を突き止めると、フェルグス・マク・ロイヒを遣わして帰還の安全を約束させた。ところが帰路、フェルグスは饗宴の招きを断れないというゲッシュを突かれて一行から引き離される。フェルグスの息子に守られてエウァン・ワハに着いた一行を待っていたのは、王の放った密偵と、赤枝の館への襲撃であった。ノイシュと弟たちは奮戦したが、王が忠誠の誓いを持ち出してデアドラを引き離させ、エオガン・マク・ドゥルタハトの投げた槍がノイシュを貫く。弟たちもほどなく討たれた。
王は彼女を妻とした。一年のあいだ彼女が微笑まないことに苛立った王は、自分のほかに世界で最も憎む者は誰かと問う。ノイシュを殺したエオガンだ、と彼女は答えた。ならばおまえをエオガンにやろう、と王は言う。戦車で引き渡される道すがら、二頭の雄羊にはさまれた雌羊のようだ、と王が嘲った。彼女は戦車から身を投げ、岩に頭を打ちつけて死んだ。
図像と象徴
主画像は、ヘレン・ストラットンが『神話集』(1915年)に寄せた挿絵である。古代の図像はなく、視覚像はすべてケルト復興以降のものにあたる。
物語が与える標識は、雪の上の鴉である。白い雪、黒い羽、赤い血——この三色が、彼女が望んだ男の姿になり、そのまま物語の色になる。もう一つは戦車であり、彼女はそこから身を投げて生を終える。予言によって生まれる前から運命を決められた者が、最後に自ら選んだ唯一の行為がそれであった。
系譜と関係
父は語り部フェドリミド・マク・ダル、育ての親はレヴォルハム。夫はノイシュ、のち強いられてコンホヴァル。
この物語は、フェルグスがアルスターを離れてコナハトへ亡命する理由を説明するものでもある。約束を破られた彼はエウァン・ワハを焼き、三千の従者を率いてメイヴのもとへ走った。『クアルンゲの牛捕り』でアルスターの敵に回るのはこのためであり、この一篇は『牛捕り』の前史として読まれてきた。カフバズの予言に言う「三戦士の流離」は、そのまま実現している。
文化的足跡
近代アイルランド文学において、この人物ほど繰り返し舞台にかけられた例はない。ジョージ・ウィリアム・ラッセル『デアドラ』(1902年)、W・B・イェイツ『デアドラ』(1907年)、そして未完のまま遺されたJ・M・シング『悲しみのデアドラ』(1910年)がその中心をなす。いずれもアイルランド文芸復興の只中で書かれ、失われた国と奪われた女という主題が重ねられた。
シングの戯曲は20世紀前半の作曲家たちに好まれ、いくつもの音楽が付けられた。20世紀後半以降も小説や音楽で扱われ続け、アイルランド海軍の艦艇にもその名が用いられた。トリスタンとイズー、あるいはヘレネーの物語と並べて論じられることも多い。