チャルチウィトリクエ
チャルチウトリクエ · 翡翠のスカートをはく者 · チャルチウクエイェ
アステカ神話の水の女神。「翡翠のスカートをはく者」の意で、川・湖・海から洗礼まであらゆる水をつかさどる。出産と新生児の守護女神でもあり、雨神トラロックと対をなす。
解説
概要
チャルチウィトリクエ(Chālchiuhtlīcue)は、アステカ神話の水の女神である。その名はナワトル語で「翡翠のスカートをはく者」を意味し、翡翠(チャルチウィトル)と裳(クエイトル)を結んだ語である。川・湖・海・泉・嵐、そして水による洗礼まで、あらゆる水のはたらきを統べる。豊穣と深く結びつき、出産と新生児を守る女神でもあった。アステカの雨神群の一柱として、雨と山の神トラロックと分かちがたい対をなす。
神話・物語
五つの太陽の宇宙観において、チャルチウィトリクエは第四の太陽「四の水(ナウィ・アトル)」の時代を統べたとされる。この世界は大洪水によって滅び、人々は魚と化したと伝えられ、彼女はその洪水神話をもたらす者として畏れられた。水の恵みと災いの両面を体現するこの性格は、後代の伝承にも影を落とす。1500年頃、アシャヤカトルの後継アウィツォトルがコヨアカンからテノチティトランへ水道を引いた際、コヨアカンの首長を殺したことに守護女神たる彼女が怒り、水道が氾濫を起こしたと語り継がれた。水の神の常として、羽毛の蛇ケツァルコアトルとともに現れることも多い。
図像と象徴
絵文書のチャルチウィトリクエは、翡翠で飾られた青緑のスカートをまとい、頬に一、二本の短い黒い縦線を描いた姿で表される。蛇の頭をかたどった兜、翡翠の首飾り、胸には円鏡ないし円板をいただくことがある。とりわけ特徴的なのは、その体から流れ出る水流のなかに男児と女児が描かれる図像で、これは彼女が出産と新生児を司る神であることを明瞭に示す。翡翠という貴石は、アステカにおいて水そのものと生命の価値を象徴し、女神の裳はその聖性の徴であった。
系譜と関係
トラロックとの関係は伝承によって揺れ、その妻とも、姉とも、母とも語られる。トラロックとの間に月神テクシステカトルを産んだとする伝えもある。水の男神チャルチウトラトナルと近しく並べられる一方、トウモロコシの女神シロネンやチコメコアトルとしばしば混同された。これらは、水と豊穣をめぐる複数の神格が互いに重なり合う、アステカの神観のありようを映している。
文化的足跡
チャルチウィトリクエは新生児の守護女神として、日々の暮らしに深く根を張っていた。産婆は生まれた子を水で清めるとき、その名を呼んで加護を求めた——洗礼にも似たこの儀礼が、彼女の信仰の核にあった。乾季には雨を乞うため、男児がトラロックに、女児がテスココ湖のパンティトランでチャルチウィトリクエに捧げられたと伝えられ、人身供犠の対象ともなった。暦の上では蛇の日と、トレセーナ「一の葦」の守護神とされる。その信仰はメシカにとどまらず、エルサルバドルのピピル人の間にも及んだ。古典期テオティワカンの壁画に見える水の女神を、その淵源とみる説もある。