コアトリクエ
コワトリクェ · テテオインナン · トシ
アステカ神話の地母神。「蛇のスカートをはく者」の意で、太陽神ウィツィロポチトリらを産んだ神々の母。生を育み死を呑み込む、大地そのものを体現する。
解説
概要
コアトリクエ(Cōātlīcue)は、アステカ神話の地母神である。その名はナワトル語で「蛇のスカートをはく者」を意味し、とぐろを巻く蛇の裳をまとう。太陽と戦の神ウィツィロポチトリ、月の女神コヨルシャウキ、そして南天の星々センツォン・ウィツナワを産んだ「神々の母」テテオインナンでもある。生命を育む大地であると同時に、死者を呑み込む墓でもある——両義の大地を一身に体現する神格である。
神話・物語
コアトリクエの中心の物語は、子ウィツィロポチトリの誕生である。蛇の山コアテペックの神殿を掃き清めていた彼女のもとに、天から羽毛の毬が降り、それを懐にしまうと身ごもった。この処女懐胎を恥として、娘コヨルシャウキは四百の兄弟センツォン・ウィツナワを率い、母を討とうと山へ攻め上る。だが胎内のウィツィロポチトリは武装して生まれ出るや、姉コヨルシャウキを討ち、その体を山の斜面へ切り落とし、兄弟を四散させた——サアグンフィレンツェ写本第三巻が「神の歌」として伝える建国の神話である。ドゥラン『ヌエバ・エスパーニャ諸事史』やラミレス写本にも異伝が記され、太陽が夜ごと月と星を打ち破る運行の寓意とも読まれてきた。異伝では、コアトリクエは女神官とも、大地の女神そのものとも語られる。
図像と象徴
1790年、メキシコシティの中央広場(ソカロ)で太陽の石とともに掘り出された巨大な玄武岩像が、コアトリクエの姿を最もよく伝える。高さ約2.6メートルに及ぶこの像は、絡み合う蛇のスカート、人間の心臓と両手を連ね髑髏を垂らした首飾り、鉤爪の手足をもつ。首からは、切り落とされた頸から噴き出す血を表す二匹の蛇が向かい合い、それが顔をかたちづくる。垂れた乳房は、多くの子を育んだ母の徴である。もっとも、この像の斬首の図像は、斬られたのが娘コヨルシャウキであるコアテペック神話とは食い違う。像を、第五の太陽を動かすため身を捧げた女神たちの犠牲の物語に結びつける解釈もあり、その同定は今も定まらない。
系譜と関係
子には太陽神ウィツィロポチトリ、月の女神コヨルシャウキ、四百の星神センツォン・ウィツナワがある。配偶神を狩猟神ミシュコアトルとする伝えもある。コアトリクエは、大地母神をめぐる複数の女神——「われらの祖母」トシ、産で死んだ女を守るシワコアトルなど——としばしば重ね合わされ、これらは同じ地母神複合の諸相と見なされる。
文化的足跡
1978年、テンプロ・マヨールの発掘で切断されたコヨルシャウキの円盤が出土し、コアテペック神話と大神殿の祭祀が現実に結びついていたことが裏づけられた。コアトリクエ像はメキシコ古代美術の代表作として国立人類学博物館に収まり、生と死を一つに束ねるその造形は、近代以降のメキシコ美術やナショナリズムの象徴としても参照されてきた。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。