テクシステカトル
テクシステカトル · テクシステカトル(Tecuciztecatl) · メツトリ
アステカ神話の月神。「ホラガイの人」を意味する。第五の太陽の創造で火に飛び込むのをためらい、顔にウサギを投げつけられて月となった。
解説
概要
テクシステカトル(Tēcciztēcatl)は、アステカ神話の月神である。名はナワトル語で「テクシストランの人」、すなわち「ホラガイ(tēcciztli)の地の者」を意味する。単にメツトリ(月)とも呼ばれる。
神話・物語
この神を語る伝承は、第五の太陽の創造にほぼ尽きる。『フィレンツェ写本』によれば、まだ光のない世界で神々がテオティワカンに集まり、太陽を生むために身を焼く二柱を選んだ。裕福で高慢なテクシステカトルは、ケツァールの羽根と宝玉と黄金を供えて四日の潔斎を行った。もう一柱のナナワツィンが供えたのは、草と紙と自身の血である。
火に飛び込む順はテクシステカトルが先と決まったが、炎の熱に怯えて四度しりぞいた。先に身を投じたのはナナワツィンであり、恥じたテクシステカトルはそのあとを追った。二柱はともに太陽として東に現れたが、二つの太陽では明るすぎるとして、神々の一柱がテクシステカトルの顔にウサギを投げつけた。光を削がれたこの神は月となり、月面にはいまもウサギの影が残るのだという。
火勢の衰えた後に飛び込んだため、ナナワツィンが黒い鷲として立ち上がったのに対し、テクシステカトルは斑のあるジャガーになったとも語られる。もっとも、鷲とジャガーは二柱の変じた姿ではなく、あとから火に飛び込んだ別の存在だとする読みもあり、解釈は一つに定まらない。鷲とジャガーはアステカ二大戦士団の名でもあり、この説話は創世と戦士身分の双方に接続している。
図像と象徴
サギの羽根の頭飾りと、背に負った白いホラガイがこの神の徴である。巻貝は月そのものを表すとともに、月と水棲の生き物とが結ばれていたことを示す。蝶の翅をつけて描かれることもある。
系譜と関係
雨神トラロックと水の女神チャルチウィトリクエの子とする伝がある。月と結びつく神格としては、ウィツィロポチトリに討たれた姉コヨルシャウキも挙げられるが、両者を関係づける伝承はない。ためらった者が月となり、迷わなかった者が太陽となる——この対比が、テクシステカトルの役どころを決めている。