アウィツォトル
アウィツォトル · 水の犬 · Ahuizotl
尾の先に手がついた「棘のある水のもの」。子供の泣き声をまねて水辺の人を誘い、引き込んで溺れさせ眼と歯と爪を食う。その犠牲者は雨の神の楽園へ行くとされた。実在のミズオポッサムの観察が基になったとみられる。
解説
概要
アウィツォトル(古典ナワトル語 āhuitzotl「棘のある水のもの」、別名「水の犬」)は、アステカ神話における伝説上の生き物である。人を誘い出して死なせるという。
この生き物は同名の支配者によって紋章として採用され、「雨の神々の友」であったとされる。
姿と習性
『フィレンツェ絵文書』によれば、小さな犬に似ており、耳は小さく尖り、毛は黒く滑らかで、手は猿のようであった。
最大の特徴は、尾の先に手がついていることである。この手で水辺の人を掴み、水中へ引き込む。
湖や淵に住み、子供の泣き声をまねて人を誘う。近づいた者を引き込んで溺れさせ、その眼、歯、爪を食う。
溺死体が眼と歯と爪を失っていれば、アウィツォトルの仕業とされた。それらは神々に捧げられた供物とみなされ、遺体は祭司によって手厚く葬られ、トラロカン——雨の神の楽園——へ行くとされた。
実在の動物
アウィツォトルは、おそらくミズオポッサム(水生の有袋類)である。この動物は「アライグマや猿のような」器用な手と、物を掴む尾を持つ(尾の手は、この掴む性質を表したとみられる)。防水の斑の毛皮も特徴である。
実在の動物の観察が、怪物の描写になっている。ただし尾の先に手がついているという細部は、想像による誇張である。
支配者アウィツォトル
第八代トラトアニ(1486〜1502年在位)は、この生き物の名を持つ。アステカ帝国の最大版図を実現した王であり、その名の紋章は写本に多数描かれる。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、支配者アウィツォトルの名を表す文字記号である。
溺死という日常の危険が、怪物によって説明されている。同時に、溺死者が楽園へ行くという慰めの観念も伴う。
関わる伝承
トラロカン(雨の神の楽園)と結びつく。トラロックの領域に属する。
日本の河童、スコットランドのケルピーと同じく、水辺の危険を体現する存在である。
文化的足跡
メキシコの民間伝承において、アウィツォトルは今日も水辺の怪として語られる。