アシ
アルティ · アシ・ワングフィ · アフリシュワング
ゾロアスター教のヤザタで、「与えられるもの」すなわち報いを司る女神。行いに応じた果報をもたらし、ミスラの御者を務めるとされる。クシャーン朝の貨幣に豊穣角を抱く姿で現れる。
解説
概要
アシ(アヴェスター語 aṣ̌i)は、「得られるもの」を意味する語で、報い・果報・気まぐれな幸運を司るヤザタである。ar-(割り当てる)に由来する女性の抽象名詞で、物質の報いと霊の報いの双方を含む。後代のアヴェスターではアシ・ワングフィ(善き報い)と呼ばれ、中期ペルシア語ではアフリシュワング。ヴェーダに対応する語をもたない点で、アシャやウォフ・マナフとは事情を異にする。
神話・物語
『ガーサー』にこの語は十七度現れるが、そこではまだ抽象概念であって神格ではない。しばしば真理アシャと結ばれ、真理には善き報いが伴うと歌われる。『ヤスナ』43.5は、アフラ・マズダーが行いと言葉に報いを定める——悪しきには悪しきを、善きには善き報いを——と述べ、50.9では人が自らの報いに働きかけうるとされる。行為と結果を結ぶこの観念は、ザラスシュトラの説く選択の自由と分かちがたい。
後代のアヴェスターでは明確に女神となり、アルド・ヤシュト(ヤシュト第17)が捧げられる。戦のときに勝利を授ける者とされ、ミスラの御者を務める。讃歌はこの女神を敬って報いられた王と英雄を数え上げる一方、恩恵を受けない者も挙げる。魔のほかに、まだ年端のいかない子どもたちがそこに数えられるのは目を引く。続く数節は、追われて岩の下に隠れたこの女神が、その子どもたちに見つけ出されたという挿話を伝え、最後の三節では、女神がアフラ・マズダーに向かって、娼婦のふるまいに感じる恥を訴える。報いの女神が、報いの分配から外れる者を語る屈折した構成である。
図像と象徴
イラン本土に確実な像は残らないが、クシャーン朝の貨幣にアルドフショー(ΑΡΔΟΧÞΟ)の名で現れる。本サイトが主画像に掲げるのはフヴィシカ王の金貨(2世紀、サンフランシスコ・アジア美術館蔵)の裏面で、豊穣角(コルヌコピア)を抱えて坐す女神が打たれている。豊穣角はヘレニズム美術の語彙であり、イランの報いの女神がギリシア風の富の像を借りて姿を得たことになる。この図像はガンダーラを経てインドへ流れ、ラクシュミー像の成立に関わったとする議論がある。
系譜と関係
スラオシャとの結びつきは深く、その常用の添え名アシヤは「アシを伴う者」とも解される。宝を運ぶ女神パーレンディと対にした複合形でも現れる。家畜の守護者ドルワースパーの讃歌は、この女神の讃歌の一部を写したものである。水の女神アナーヒターの讃歌アーバーン・ヤシュトとアルド・ヤシュトには重なる詩節が多い。両女神がともに豊穣を司ることによるが、戦いに関わる詩節は「水」の讃歌に置かれると座りが悪く、どちらからどちらへ移されたかは決めがたい。暦では各月の第25日を司る。
文化的足跡
この女神の名は中期ペルシア語でアルド(ard-)となり、真理を意味するアルタ(アシャ)と紛らわしくなった。報いと真理という近しい二つの観念が、語形の上でも重なってしまったわけで、今日の文献研究でも両者の読み分けは課題として残っている。