アルウェズ
アーミド · エアマド · アルウェド
薬草を司るアイルランドの女神。兄ミアハの墓から生えた三百六十五種の薬草をすべて整理したが、父ディアン・ケヒトに撒き散らされ、その知識は人に伝わらなかった。
解説
概要
アルウェズ(Airmed、アーミドとも)は、アイルランド神話のトゥアハ・デ・ダナーンに属する女神である。医神ディアン・ケヒトの娘で、兄ミアハとともに第二次マグ・トゥレドの戦いの負傷者を癒した。
薬草の知識を司る。世界のすべての薬草を知る唯一の存在でありながら、その知識を人に伝えられなかった女神でもある。
神話・物語
始まりは、王ヌアザの失われた腕である。父ディアン・ケヒトは銀の義手を作ってこれに代えたが、アルウェズと兄ミアハは、その銀の上に肉を生じさせ、腕を失う以前とまったく変わらぬ状態にまで戻した。おかげでヌアザは王位を続けることができた。
面目を潰された父は激怒し、ミアハを殺す。
アルウェズは兄の墓の上で泣いた。その涙に潤されて、世界のすべての薬草が墓の土から生えてくる。数は三百六十五——ミアハの関節と血管の数に等しい。彼女はそれをすべて集めて整理し、自分の外套の上に並べた。
そこへ父が背後から忍び寄る。彼女が分類を終えるのを待ってから、薬草を撒き散らした。
このために、生きた人間で薬草術のすべてを知る者はいない。覚えているのはアルウェズだけである。古代のアイルランド人は、この知識の喪失が人の苦しみを大きく増したと考えた。
父と兄と娘、そしてオフトリウルとともに、スラーネの泉の上で呪文を唱えて死者を蘇らせた四人の術者の一人でもある。
図像と象徴
図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
この女神を規定するのは、外套の上に整理された薬草という一つの図である。分類され、名を与えられ、順序に並べられた知識——それが一息に散らされる。医学史や薬草学の文脈で繰り返し引かれてきたのは、この場面が「失われた体系的知識」という主題を、これ以上ないほど簡潔に語るためである。
三百六十五という数にも意味がある。一年の日数と一致するのは偶然ではあるまいが、原典が結びつけているのは兄の身体の関節と血管の数である。人の身体の部位の数だけ薬草がある、という対応が想定されている。身体と植物が一対一で対応するという発想は、後代のヨーロッパの薬草学にも通じる。
系譜と関係
父はディアン・ケヒト、兄はミアハ。姉妹にエーダン、兄弟にケヘン、キアン、ク、ミアハ、オフトリウル、オルミアハがいる。
キアンがエスニウとのあいだにもうけた子がルーであるから、彼女はこの英雄の叔母にあたる。
父との関係が、この女神の物語のすべてを決めている。医神である父が、より優れた治療を行った子を殺し、さらに薬草の体系を破壊する。医術の神が医術の進歩を妨げるという構図であり、アイルランド神話のなかでも異例の暗さを持つ。
文化的足跡
日本語圏でこの女神が紹介されることは少ない。ディアン・ケヒトの名は医神として知られるが、殺された息子と、散らされた薬草を集めた娘の名まで挙げられることは稀である。
それでもこの物語は、知識の伝達という主題を扱った神話として読む価値がある。医術は失われたのではなく、伝えられなかった。整理は完了していたのに、それを運ぶ手立てが奪われた——現代の目から見ても、知識が失われる仕組みをよく言い当てている。