トシ
テテオ・インナン · トラリ・イヨロ · テマスカルテシ
アステカ神話の老いた地母神。「我らの祖母」を意味し、蒸し風呂と産婆・治療者の守護神である。トラソルテオトルとしばしば同一視される。
解説
概要
トシ(Tocih)は、アステカ神話の老いた地母神である。名はナワトル語で「我らの祖母」を意味する。『フィレンツェ写本』はこの神の別名として、テテオ・インナン(神々の母)、トラリ・イヨロ(大地の心臓)を挙げる。コアトリクエの一位相とみなされることもあり、独立した神格というより、地母神の老年相を束ねる呼び名に近い。
神話・物語
メシカがメキシコ盆地へ移り住む伝承に、この神の由来が語られる。アストランを出た放浪の途上、メシカはコルワカンの主に仕えた。主は娘を差し出して婚姻を結ばせようとしたが、メシカの守護神ウィツィロポチトリは、娘を生贄として皮を剥ぐよう命じた。剥いだ皮は若者に着せられ、娘はトシに変じた。これを見たコルワカンの主は激怒してメシカを追い、追われた一族はテスココ湖の島に逃れて、そこにテノチティトランを築いた。都の起源譚に、この神の成立が組み込まれている。
図像と象徴
老いた神とされながら、老齢の徴を明示して描かれるとは限らない。口と鼻のまわりを黒く塗り、木綿の紡錘を挿した頭飾りをつけるのが標準の姿である。ただしこれはトラソルテオトルの徴でもあり、絵文書の図がいずれの神を描いたかで判断が割れることは多い。両神は史料の側ですでに重ねられている。
戦いの神でもあり、盾と弓矢を執る姿でも描かれる。「争いの女」という異名もこれに対応する。
系譜と関係
治療者と産婆の守護神であり、テマスカルテシ(蒸し風呂の祖母)の名をもつ。テマスカルは産後の養生と病の治療に用いられ、その多くはこの神かトラソルテオトルに捧げられていた。
「大地の心臓」の相においては、収穫祭オチパニストリの主役となる。祭では産婆たちが女性にこの神の装いをさせ、生贄として捧げたと伝えられる。掃き清めと収穫と供犠が一続きの所作をなす祭であり、老いた地母神がその中心に据えられていた。