ティシュトリヤ
ティシュタル · ティール · ティシュトリア
ゾロアスター教のヤザタで、恒星シリウスの神格化。白馬の姿で旱魃の魔と戦い、勝てば海に降りて雨を降らせる。イラン暦第4月ティールにその名が残る。
解説
概要
ティシュトリヤ(アヴェスター語 tištriia)は、ゾロアスター教のヤザタで、恵みの雨と豊穣に結びつけられる。中期ペルシア語ではティシュタル、新ペルシア語ではティール。全天でもっとも明るい恒星シリウスの神格化であり、アヴェスターにおける古い語法から、インド・イラン共通期に遡る神格とみられている。
古代イランの天体観では、恒星は秩序に従って動く善なるもの、惑星は勝手気ままに天球をさまよう悪しきものとされた。そのなかでシリウスは星々の王として重んじられる。夜明け前にこの星が見えはじめる時期が雨季の始まりに当たったことから、雨の神としても崇められるようになった。
神話・物語
ティシュタル・ヤシュトが伝えるのは、旱魃の魔アパオシャとの戦いである。この神格は輝く白馬の姿をとり、恐ろしい黒馬の姿をとった魔と相まみえる。ところがアパオシャが優勢に立つ。人々からの祈りと供犠が足りず、力が満たなかったためである。窮した神格が創造主に呼ばわると、アフラ・マズダー自身が供犠を捧げた。力を得たティシュトリヤは魔を退け、雨は旱いた畑と牧草地へ流れ落ちる。
神が人の供犠によって力を得るという筋は、この物語の眼目である。祭祀を怠れば神は敗れうる——供物と祈りの重みを、これほど端的に語る神話は多くない。勝利ののち、この神格は白馬の姿でウォルカシャ海に降り立ち、水を蒸気に変えて雲を起こし、世界に雨を降らせるという。
図像と象徴
この神格を表した古代の図像は伝わらない。本サイトが主画像を掲げないのはこのためである。語られる姿は白馬であり、これはウルスラグナの十の化身にも数えられる形である。黄金の飾りをつけた白馬、十五歳の若者、雄牛——雨の神と勝利の神は、変身する姿の語彙を分けあっている。個々の神格に固有の像を与えるより、力の現れ方を型として共有する造形観がここにある。
系譜と関係
暦では各月の第13日と年の第4月を司る。アケメネス朝の時代にセム系の神ティリと習合し、そこからシリウスとの結びつきが確立したとみられている。ティリに結びついていた祭ティーラガーンも、この神格へ移された。ヘレニズム期にはデルポイのアポローンと結びつけられ、神託の神としての性格を帯びた。
『ブンダヒシュン』では、アムルタートが砕いた原初の植物を水に混ぜたとき、その水を雨として世界に撒いたのがこの神格である。
文化的足跡
イラン暦の第4月ティールにその名が残り、ティーラガーンは今日も水を掛けあう夏の祭として各地で行われている。