サンダーバード
ワキニャン · アニミキ · サンダーバード
北米先住民の広範な伝承に登場する巨大な霊鳥。翼の羽ばたきが雷を呼び、その目や爪が稲妻を放つとされ、天空の力そのものを体現する。
解説
概要
サンダーバード(Thunderbird)は、北米先住民の神話に広く見られる巨大な霊鳥である。北西海岸から平原部、五大湖周辺まで、多くの民族が固有の名で呼んできた。翼を打つ音が雷鳴となり、その目や爪から稲妻がほとばしるとされる。天候を統べる天空の力の体現であり、正しき者を守る存在としても語られる。役割の上では雷神であると同時に、嵐そのものを司る嵐・風の神でもある。
神話・物語
姿と役割は民族ごとに異なり、異伝を一本化することはできない。オジブワ(アニシナアベ)ではアニミキと呼ばれ、文化英雄ナナボゾが湖底の水獣ミシペシュと戦わせるために生み出したと伝えられる——天空と水界の均衡を保つための存在である。ラコタではワキニャンと呼ばれ、ニールハート編『ブラック・エルクは語る』(1932年)によれば、四方を守る四体のワキニャンとして現れ、大いなる神秘ワカン・タンカと結びつき、心正しき者を守る。北西海岸のクィリュートやヌーチャヌルス、クワクワカワクゥの伝承では、鯨を海から掴み上げて捕食する霊鳥として語られ、サンダーバードと鯨の闘争は地震や津波の由来ともされた。天空の鳥と水界の蛇・獣とが争うという主題は、各地に共通して見られる。
図像と象徴
北西海岸の造形が最もよく知られる。トーテムポールでは最上部を占め、天空を統べる至高の存在として下界を見はるかす(トーテムポール)。湾曲した嘴、巻き上がった羽角、左右対称に大きく広げた翼が定型で、変身仮面や家柱にも刻まれた。平原部では針刺し細工やレッジャー・アートに、また各地の岩絵にもその姿が残る。ミネソタのジェファーズ・ペトログリフはその古例である。もっともラコタは、サンダーバードに「定まった形はない」と語り、その姿は数多の幻視を継ぎ合わせて思い描かれるものだとした。
系譜と関係
その宿敵は、湖底や地下に棲む水獣・角ある大蛇である。オジブワのミシペシュ、ラコタのウンクテヒラがこれにあたり、天と水の対立という宇宙観の骨格をなす。近代には、先住民が翼竜の化石を目にしたことが起源だとする説も唱えられたが、各民族の造形は先史の飛行爬虫類とは異なっており、定説とはなっていない。
文化的足跡
サンダーバードは今も北西海岸の美術やポトラッチの儀礼に生きており、先住民文化の象徴でありつづけている。その名は自動車やスポーツチームにも借用され、現代の創作作品にもしばしば登場する。