レイヴン
大鴉 · ワタリガラス · Raven
北米太平洋岸北西部の創造の物語の中心。貪欲でいたずら好きだが、その策略によって光を盗み、貝から最初の人間を引き出した。ハイダ社会は鷲と大鴉の半族に分かれる。
解説
概要
レイヴン(大鴉)は、北米太平洋岸北西部の先住民に伝わる、人間と動物の創造の物語の中心的な存在である。アサバスカ語系の諸民族などにも見られる。
レイヴンの物語はこの地域のほぼすべてのファースト・ネーションに存在するが、とりわけハイダ、ツィムシアン、トリンギット、タルタンの人々の物語において顕著である。
神話・物語
レイヴンは、いつも魔法の力を持つ存在であり、人の姿をとることもできる。欲が深く、好奇心が強く、いたずら好きだが、その策略によって世界に恵みをもたらす。
最もよく知られるのは、光の起源の物語である。世界が闇に閉ざされていたころ、光を箱に入れて独り占めしている首長がいた。レイヴンは松葉に姿を変えて首長の娘に飲み込ませ、その娘の子として生まれた。そして祖父となった首長に箱をねだり、ついに光を手に入れると、大ガラスの姿に戻って、煙出しの穴から飛び去った。こうして、世界に光がもたらされたという。ハイダの人々の伝承では、レイヴンは浜辺で大きな貝を見つけ、そのなかから最初の人間たちを引き出したとされる。このほか、水をもたらした話、火を盗んだ話、潮の満ち引きを造った話などがある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、トリンギトのガーナクスアーディ氏族の儀礼の帽子《ナス川の源のレイヴン》(1810年ごろ)である。
固有の古い図像は伝わっていない。ただしトーテムポールや箱、仮面にレイヴンは繰り返し彫られており、太平洋岸北西部の美術の中心的な主題である。
この存在を規定するのは、盗みによって恵みをもたらすという構造である。光も火も水も、正当に得られたものではなく、策略によって奪われたものとして人に届く。同じ型はコヨーテやプロメーテウスにも見られる。
物語の所有について
一部の語り手の立場からは、レイヴンの物語のような先住民の神話は、娯楽ではなく、その物語が発する氏族や個人の文化的財産でありうる。他の氏族に属する物語を許可なく語らないこと、ある物語が誰のものであるかを共有する前に確かめることが慣習とされる。本項はこの点を踏まえ、広く公開されている型の記述にとどめている。
関わる伝承
コヨーテ、ナナボゾ、イクトミと、トリックスター兼文化英雄という位置を共有する。太平洋岸北西部では鷲がレイヴンと対をなし、ハイダの社会は鷲と大鴉の二つの半族に分かれる。
文化的足跡
ハイダの彫刻家ビル・リードの《レイヴンと最初の人間たち》(1980年、ブリティッシュコロンビア大学人類学博物館蔵)は、貝から人間を引き出す場面を表し、カナダの20ドル紙幣にも用いられた。
なお北米先住民の諸伝統は今日も継承されている生きた信仰であり、物語の多くは特定の民族・氏族に属するものとして語られる。