タアウトス
タウト · Taautus · Taautos
ビュブロスのフィロンが伝えるフェニキアの伝承で、文字を発明したとされる神。エジプトのトートにあたり、クロノス(エール)からエジプトの地を与えられたという。竜と蛇の性質を神聖なものとみなしたとも伝えられる。
解説
概要
タアウトス(ギリシア語 Τάαυτος)は、ビュブロスのフィロンが伝えるフェニキアの伝承で、文字を発明したとされる神である。フィロンは、エジプト人がトウトと呼び、アレクサンドリアの人々がトート、ギリシア人がヘルメースと訳した神だと注している。エジプトの知恵と書記の神トートを、フェニキアの側から語った姿といえる。
神話・物語
フィロンが伝えるサンクニアトンの記述によれば、タアウトスはミソールの子で、天下のあらゆる人のうち最初に文字を考え出し、記録を書き始めた者である。サンクニアトンはこのタアウトスの事績を出発点として歴史を書いたとされ、タアウトスには宇宙の生成を論じた『注解』という著作もあったという。のちにクロノス(エール)が諸地方を神々に分け与えたとき、エジプトの地はタアウトスに与えられた。
フィロンはまた、タアウトスが竜と蛇の性質を神聖なものとみなし、のちのフェニキア人とエジプト人もこれに倣ったと記す。蛇は足も手もないのに速く動き、皮を脱いで若返り、非常に長く生きると説明される。
図像と象徴
タアウトスを表した像は知られておらず、本サイトも主画像を掲げない。フィロンは、タアウトスがクロノスのために王の徴を考案したとも伝える。前後に二つずつの目、六枚の翼をもつ姿で、目の半分と翼の一部を閉じて、眠りながら見、休みながら飛ぶさまを表したという(エールの項を参照)。
系譜と関係
父はミソールで、フィロンの系譜ではミソールとシュドゥク(「正しい者」)の兄弟が並んで現れる。役割の上では、エジプトのトート、ギリシアのヘルメース、メソポタミアの書記の神ナブーと並べられる。
フィロンの伝える神々は、人間の発明者や王が死後に神とされたものとして語られる。この見方は前3世紀のエウヘメロスにちなんでエウヘメリズムと呼ばれる。4世紀のエウセビオスがフィロンを引用したのは、異教の神々がもとは人間にすぎないことを示すためであったが、その引用のおかげでフェニキアの神々の名と系譜が今日に残った。
文化的足跡
ギリシア文字、ラテン文字、アラム文字、ヘブライ文字、アラビア文字は、いずれもフェニキア文字にさかのぼる。タアウトスは、その文字を神話の上で生み出した者として、文字の起源をめぐる古代の語りのなかに位置づけられる。