サンクニアトン
サンクニアトン · サンコニアトン · Sanchuniathon
フェニキアの著述家で、その著作はフィロンのギリシア語訳をエウセビオスが異教論駁のために引用した形でのみ残る。19世紀には偽作とされたが、1929年のウガリット文書の発見により神名と系譜の一致が判明し、古い伝承を伝えるとされるようになった。
解説
概要
サンクニアトン(ベリュトスのサンコニアトンとしても知られる)は、フェニキアの著述家である。
もとフェニキア語で書かれたその三つの著作は、部分的な言い換えと、ギリシア語訳の要約においてのみ残る。
なお本サイトの分類では、実在が確定しない著述家であるが、フェニキア神話の主要な伝承者として扱う。
伝承の経路
サンクニアトンの著作は、三重の経路を経て伝わる。
ビュブロスのフィロン。 2世紀のフィロンが、フェニキア語からギリシア語に訳したとされる。
エウセビオス。 4世紀のカイサリアのエウセビオスが、『福音の準備』においてフィロンの訳を引用した。
エウセビオスの意図。 エウセビオスは、異教の神々がもと人間であったことを示すため(エウヘメリズム)にこれを引いた。
批判のための引用が伝承を残す。 異教を論駁するための引用が、結果としてフェニキア神話を今日に伝えている。
『ワロチリ写本』が偶像撲滅のための聞き書きであったのと同じ構造である。
実在をめぐる議論
サンクニアトンが実在の著述家であったかは、長く議論されてきた。
偽作説。 19世紀には、フィロンの創作とする説が有力であった。
再評価。 1929年のウガリット文書の発見が、状況を変えた。
ウガリットとの一致。 サンクニアトンの伝える神々の名と関係が、ウガリットの文書と一致する部分があることが判明した。
エール、バアル、アシタルト。 これらの神名と系譜が、実際の資料と対応する。
古い伝承を含む。 今日では、フィロンの改変を含みつつも、古いフェニキアの伝承を伝えているとする見方が有力である。
考古学が文献を救う。 偽作とされた文献が、発掘によって価値を回復した例である。
伝える内容
宇宙開闢。 混沌から風と欲望が生じ、そこから万物が生じたとする。
神々の系譜。 エリウーン(エルヨーン)→ウーラノス→エール(クロノス)という世代交代を語る。
ヘシオドスとの類似。 ギリシアの『神統記』の世代交代と構造が似る。
ヒッタイト・フルリとの関係。 クマルビ神話の世代交代とも比較される。近東からギリシアへの伝播が論じられてきた。
タアウトス。 文字の発明者として言及される。エジプトのトートに相当する。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。
関わる神格・伝承
フェニキア神話の伝承者。フィロン、エウセビオスを経て伝わる。
文化的足跡
サンクニアトン断片は、フェニキア宗教を知る数少ない文献資料として、繰り返し論じられる。