スヴャトゴール
スヴャトゴル · スヴャトゴール・ボガトィーリ · Святогор
ロシア叙事詩に現れる太古の巨人。立つ木より高く行く雲より低い体を大地は支えきれず、聖なる山に住んだ。石の棺に横たわり、蓋を開けられぬまま果てる。
解説
概要
スヴャトゴール(Святого́р / Svyatogor)は、ロシアの口承叙事詩ブィリーナに現れる巨人である。名は「聖なる山」を意味する。
ボガトィーリと呼ばれはするが、イリヤー・ムーロメツたちとは層が違う。キエフ環にもノヴゴロド環にも属さず、イリヤーとの出会いを語る一群を通してかろうじて主要な叙事詩に接している。研究者はこれを最も古い層と見る——キリスト教以前の、神に近い存在の名残と。
彼はルーシの地には来ない。聖なる山々に住む。彼が動けば母なる湿れる大地は震え、森は波打ち、川は岸を溢れる。大地が彼の重さを支えきれないからである。父は「暗い」、すなわち盲目であったと語られる。異界の者であることの徴である。
由来と物語
三つの物語が伝わる。
一つ目は袋の話である。あるとき彼は、天に環があり地に環があったなら天地をひっくり返してみせる、と豪語した。これを聞いた農夫ミクーラ・セリャニノヴィチが、地に小さな袋を落とす。中には大地の重みが入っていた。スヴャトゴールは馬上から取ろうとして届かず、降りて両手でつかむと、膝まで地に沈み、そのまま力尽きて果てる。ミクーラが袋の秘密を明かして助かる異文もある。
二つ目は石の棺の話である。イリヤー・ムーロメツと道を行く二人は、「棺に横たわるべく定められた者が、この棺に横たわる」と刻まれた石の棺に出会う。イリヤーには大きすぎ、スヴャトゴールにはあつらえたように合った。ところが蓋が閉じ、二度と開かない。剣で断ち割ろうとすると、打つたびに棺には鉄の箍がかかっていく。死に臨んで彼はイリヤーに息を吹きかけて力の一部を渡し、自らの剣を譲る。
三つ目は婚礼の話で、これは一つの記録にしか残らない。運命を知ろうとした彼は北の山の鍛冶に問い、海辺の国の膿に伏す娘と結ばれると告げられる。娘を見つけた彼は剣で胸を打って去るが、娘は目覚めて美しくなり、やがて彼のもとへ嫁ぐ。共寝の夜、彼女の胸の傷痕に彼は運命を悟る。
図像と象徴
古い図像はない。姿を与えたのは19世紀末以降の画家で、本ページに掲げたのはアンドレイ・リャブシキンが1895年に描いた図版である。イヴァン・ビリービンにも1940年のイリヤーとの場面がある。
象徴の焦点は、力の過剰にある。彼は強すぎて使い道がない。大地が支えられず、地上へ降りられず、袋ひとつ持ち上げられずに死ぬ。力そのものが災いであるという構図は、この叙事詩の他のどの人物にも与えられていない。棺の話も同じ主題の変奏である——自分に合う容れ物を見つけたことが、そのまま死である。
関わる伝承
袋を持ち上げられない巨人という主題は、東スラヴだけのものではない。南スラヴの叙事詩では王子マルコが、カフカスのナルト叙事詩ではソスランが、同じ試練に遭う。北欧では、トールが猫を持ち上げようとして持ち上がらない話がこれに近い。
スヴャトゴールの原型については仮説が積み重ねられてきた。ヴォルナーは水を渡って幼子キリストを運んだ聖クリストフォロスに、ジダーノフは聖書のサムソンに比した。ヴェセロフスキーもサムソン説を採る。しかしいずれも決定的ではなく、この巨人が何に由来するのかは、今も分かっていない。
文化的足跡
叙事詩の巨人としては地味な存在でありながら、その名は近代ロシアで繰り返し用いられてきた。1910年代に計画された巨大爆撃機、砕氷船、そして自動車のモデル名にまで「スヴャトゴール」の名が付けられている。強大さの代名詞として使うぶんには、その最期が敗北であったことは忘れられている。ロシアでは12月3日がこの勇士を記念する日とされる。