スヴァローグ
スワローグ
スラヴ神話の鍛冶の神。マララスの世界年代記のスラヴ語訳で、ギリシアの鍛冶神ヘーパイストスに当てられた名として伝わる。太陽神ダジボーグの父とされ、名を負う火の神スヴァロジチの存在からも崇拝がうかがえる。
解説
概要
スヴァローグ(Сварогъ / Svarog)は、スラヴ神話の鍛冶の神である。その姿を伝える史料は、ほぼ一つの注記に限られる。6世紀のビザンツの年代記作者マララスの世界年代記がスラヴ語に訳されたとき、訳者はギリシアの鍛冶神ヘーパイストスの箇所にスヴァローグの名を書き添えた。この訳文の抜粋が、イパーチー写本に伝わる『原初年代記』の1114年の条に組み込まれて残った。
980年にウラジーミル1世が立てた神々の列にスヴァローグの名はない。それでも「スヴァローグの子」を意味するスヴァロジチが東西のスラヴで崇められていたことから、スラヴに広く知られた神であったと考えられている。火神、鍛冶神として扱われるのはこの二つの手がかりによる。
神話・物語
注記の舞台はエジプトである。マララスは、神々を古代の王として語る書き方で、エジプトの王ヘーパイストスの治世を描く。その治世に鍛冶の鋏が天から落ち、それまで棍棒と石で戦っていた人々は鉄の武器を鍛えるようになった。王はまた、一人の男は一人の妻を、一人の女は一人の夫を持つべしと定め、背いた者を罰した。スラヴ語訳はこの王を「スヴァローグ」と呼び、エジプト人に崇められたと書く。王の没後は子の「太陽」が治め、これをダジボーグと呼ぶ、と続く。
この一節からわかるのは、12世紀の書き手が鍛冶の神としてスヴァローグを知っており、ギリシアの鍛冶神にその名を当てるのが自然だと考えていたことまでである。天の鋏も一夫一婦の掟もマララスの筋書きであって、スラヴの神話がそう語っていたわけではない。訳文そのものは10世紀前後のブルガリアでなされたと見る研究者も多い。
図像と象徴
中世の像も描写も残らない。注記に現れる持ち物は、天から落ちた鍛冶の鋏だけである。本ページに掲げたのは現代の画家アンドレイ・シシキンの絵で、槌をふるう天上の鍛冶という今日の通念は、主にこうした近代以降の絵画がつくった。
系譜と関係
注記は、太陽神ダジボーグをスヴァローグの子とする。名そのものが「スヴァローグの子」を意味するスヴァロジチも、子にあたる。ここから研究者は、天の火のスヴァローグ、太陽のダジボーグ、地上の火のスヴァロジチという層を考えてきたが、これは史料の並びから組み立てた整理である。
名の由来は決着していない。サンスクリット語の svar(天、太陽)に結び、スヴァローグを天空神あるいは太陽神と見る説は長く行われたが、史料で太陽とされるのはダジボーグであり、語形の対応も疑問視されている。ロシア北部の方言に残る「争い」を意味する語と結ぶ説もあり、一夫一婦の掟を罰によって守らせる役割とは合うが、決め手はない。
文化的足跡
史料が乏しいぶん、近代の想像は自由にふくらんだ。現代のスラヴ新異教主義(ロドノヴェーリエ)は、スヴァローグを天上界スヴァルガの主、神々の父として最高の座に据えることが多い。ただしスヴァルガの語はサンスクリット語から近代に借りられたものであり、中世の史料にその裏づけはない。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。