シャラバ
シャラベーシュヴァラ · 獅子鳥 · シヴァの一形態
シヴァがとったとされる獅子と鳥の合わさった姿。怒りの収まらぬナラシンハを鎮めるために現れたとされている。
解説
概要
シャラバ(Śarabha / शरभ)は、シヴァがとったとされる獅子と鳥の合わさった姿である。八本の脚、二つの頭、翼、そして獅子の身体をもつと説かれる。ヒラニヤカシプを討ったのちも怒りの収まらぬナラシンハを鎮めるために現れたとされ、シヴァ派とヴィシュヌ派の関係を映す神格として論じられてきた。
神話・物語
『リンガ・プラーナ』『シャラバ・ウパニシャッド』などのシヴァ派文献が伝える。ヴィシュヌの人獅子化身ナラシンハは、魔王ヒラニヤカシプを裂いたのちも憤怒が収まらず、その熱によって世界が焼かれようとした。神々の求めに応じてシヴァがシャラバの姿をとり、これを鎮めたとされる。
鎮め方には二つの伝えがある。ナラシンハを爪で捕らえて空へ運び、怒りが尽きるまで留め置いたとするもの。もう一つは、その皮を剥いで自らの衣としたとするものである。後者は激しい表現であり、シヴァ派の側の主張が強く出た版といえる。
ヴィシュヌ派の側はこれに応答した。ナラシンハがさらにガンダベールンダ(二つの頭をもつ巨鳥)の姿をとってシャラバを破ったとする筋である。両派の文献が互いの神の優位を主張し合った時期の産物であり、12世紀から14世紀頃の宗派間の競合を反映するとみられている。
図像と象徴
獅子の身体に鳥の翼と嘴を具え、多脚多面で表される。爪にナラシンハを掴む構図が定型である。カルナータカやタミル・ナードゥの寺院に作例が残るが、数は多くない。
象徴となるのは、獣でも鳥でもない身体である。ナラシンハが人でも獣でもない存在として恩寵の抜け道を突いたのに対し、それをさらに超える中間的な存在が立てられているという構成をもつ。
系譜と関係
シヴァの一形態であり、別個の神格として立てられているわけではない。プラティヤンギラーやシューラビーといった女神を伴うとする伝えもある。シヴァ派の文献にのみ現れる形態である。ナラシンハとは対をなす関係にあり、両者の物語は一方だけを取り出しては意味をなさない。
文化的足跡
この神格は、シヴァ派とヴィシュヌ派が互いの主神の優位を競った時期の資料として重んじられる。ヴィシュヌ派の文献はこの説話を認めず、あるいはナラシンハの勝利をもって応じた。同じ出来事について両派の文献が正反対の結末を語るという点で、宗派間の論争を最も明瞭に示す事例の一つである。
シャラバという語自体は、『リグ・ヴェーダ』以来、獅子を殺すほど強い伝説上の獣を指す語として用いられてきた。仏典にも同名の獣が現れ、『ジャータカ』には菩薩がこの獣として生まれた話がある。神格としてのシャラバは、この既存の獣の観念にシヴァの姿を重ねたものとみられる。