シェムハザ
シェムハザ · サミャザ · シャムハザイ
『エノク書』における監視者の長。人の娘を妻とすることを望み、一人で罰を負うことを恐れて二百人の天使に共同の誓いを立てさせた。ヘルモン山でのこの誓約から巨人ネフィリムが生まれ、その暴虐が洪水の原因とされる。
解説
概要
シェムハザ(サミャザとも)は、ユダヤの外典『エノク書』に語られる、堕ちた天使たち「監視者」の長である。人間の娘たちの美しさに惹かれた二百人の天使が、互いに誓いを立てて地上に降り、娘たちを妻とした。そのあいだに生まれた巨人ネフィリムの暴虐が、大洪水の原因となったとされる。旧約聖書の『創世記』6章の短い四節が、外典のなかで大きな物語へと広がったものである。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
共に罪を負う誓い
『エノク書』第6章によれば、天使たちは人間の娘たちの美しさを見て、妻にしたいと望んだ。長のシェムハザは、「わたし一人が罰を負うことになるのを恐れる」とためらった。そこで二百人の監視者は、共に罪を負い、共に罰を受けるという誓いを互いに立てた。彼らはヘルモン山に降りて、この誓いを交わしたという。「ヘルモン」の名を、「誓い」を意味する語と結びつける語源の説明が、この物語の背後にある。一人では踏み切れないことを、皆で誓い合うことで実行したのである。
巨人ネフィリム
天使と人間の娘たちのあいだには、巨人ネフィリムが生まれた。『エノク書』は、その背丈を三千キュビトとする。巨人たちは人間の作物を食べ尽くし、次には人間を、ついには互いを食らい合った。この暴虐が、大洪水の原因となったとされる。もとになったのは、『創世記』6章の「神の子らが人の娘たちを見て、美しいのを知り、妻とした」という、洪水の物語の直前に置かれたわずか四節である。旧約聖書の短く曖昧な記述が、外典のなかで大きな物語へと広がったのである。
罰
伝承によれば、シェムハザは悔い改め、天と地のあいだに逆さに吊るされたという。その姿がオリオン座であるとする伝承もある。別の伝承では、アッザとアザエルという二人の天使が、人間の創造に反対して堕ちたとされ、シェムハザはこのアッザと同一視されることがある。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ダニエル・チェスター・フレンチの彫刻《神の子らは人の娘たちの美しさを見た》(1923年)である。
関わる神格・伝承
監視者の長であり、アザゼルと並ぶ。ネフィリムの父である。イスラームのハールートとマールートとも同じ型に属する。
文化的足跡
『エノク書』は、エチオピア正教会でだけ正典とされている。1773年にジェイムズ・ブルースがエチオピアから写本を持ち帰るまで、ヨーロッパでは失われていた。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。