監視者
監視者 · イール · イーリン
「目覚めている者」を意味する聖書の天使の一種。『ダニエル書』では神の判決を告げる善き存在だが、『エノク書』では二百人が地に降って人の娘を妻とした。それぞれが武器・占星術・文字などの技を教え、文明の技が堕天使の目録として整理されている。
解説
概要
監視者(アラム語でイール、複数形イーリン)は、旧約聖書の『ダニエル書』に現れる天使の一種で、名は「目覚めている者」「眠らない者」を意味する。『ダニエル書』では神の秩序の側にあって王に裁きを告げる聖なる存在だが、外典『エノク書』では、二百人の監視者が地上に降りて人間の娘たちを妻とし、人間に禁じられた知識を教えた堕天使として語られる。この物語は、のちのユダヤ教やキリスト教の悪霊の考えの土台となった。
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。群として現れるため群記事とする。
眠らない見張り
「イール」は、「目覚めている者」「眠らない者」を意味する。天使が眠らないことが、そのまま名になっているのである。監視者は地上を見張り、神に報告する存在とされた。『ダニエル書』4章では、バビロンの王ネブカドネツァルの夢のなかに、「一人の監視者、聖なる者が天から降って来た」と語られ、王の傲慢に対する裁きを告げる。ここでの監視者は、神の秩序の側にいる善き存在である。
『エノク書』の反逆
外典『エノク書』では、二百人の監視者が地上に降り、人間の娘たちを妻とする。その長がシェムハザである。監視者たちは、それぞれ異なる技を人間に教えた。アザゼルは武器と化粧を、アルマロスは呪いの解き方を、バラキエルは占星術を、コカビエルは星のしるしを、サリエルは月の道を、ペネムエは書くことを教えたという。文明の技術が、堕ちた天使たちの一覧として整理されているのである。ペネムエが墨と紙の使い方を教えたことまでが罪に数えられているのは、書くことよりも口で伝えることを重んじる立場を映しているとみられる。
幽閉と悪霊の起源
監視者たちは縛られ、地の下に閉じ込められた。天使と人間の娘たちから生まれた巨人ネフィリムの身体は滅んだが、その霊は地上に残って悪霊になったとされる。この考えは、のちのユダヤ教とキリスト教の悪霊の観念の土台となった。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、教会の尖塔の天使像である。
関わる神格・伝承
シェムハザやアザゼルらを含み、ネフィリムの父とされる。イスラームのハールートとマールートも同じ型に属する。
文化的足跡
『エノク書』の監視者の物語は、死海文書の断片やクムランの『巨人の書』にも見られ、第二神殿時代のユダヤ教で広く知られていたことが分かる。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。