ルサールカ
ルサルカ · マウカ · ヴォジャニーツァ
東スラヴの女の霊。水に沈んだ者や婚礼を待たずに死んだ娘がなるとされ、初夏の一週間だけ地上に戻る。魚の尾を持つ人魚の姿は、西欧の影響で後から重なったものである。
解説
概要
ルサールカ(Руса́лка / Rusalka)は、東スラヴの民間信仰に現れる女の霊である。スラヴ神話のなかでも最も像の揺れが大きく、ロシア北部と南部、ウクライナ、ポレシエで語られる内容はかなり違う。
まず断っておくべきことがある。魚の尾を持ち海に棲む人魚の姿は、この存在の本来の像ではない。西欧の人魚の像がロシアの文学と映画を通じて重なった結果であり、英語圏の事典類がスラヴのそれを mermaid と区別して rusalka と表記するのはそのためである。伝承のルサールカは水にも森にも麦畑にも現れる。ゼレーニンが言うように、水の霊とも森の霊とも野の霊とも決めがたい。
「ルサールカ」という語自体、20世紀に入るまでロシア北部では書物の言葉と受け取られていた。土地の呼び名はヴォジャニーツァ、シュトフカ、南ロシアとウクライナではマウカ、西ではクパールカである。
登場する物語
ルサールカになるのは、正しく死ななかった者たちである。洗礼を受けずに死んだ子、水に沈んだ娘、婚礼を迎えずに死んだ娘、そして三位一体祭の週に生まれたか死んだ者。西ポレシエには、娘に先立たれた父が遺体を柱に縛りつけて「嫁がせ」、ルサールカにならぬようにしたという話が伝わる。
彼女たちが地上に来るのはルサールカ週間である。この週、水浴も機織りも糸紡ぎも禁じられ、独りで森へ入ってはならない。不意に出会ったときは、手巾か袖でもよいから布を投げてやる。祈らずに眠った女の家から糸や布や衣を盗み、その男を情人に選ぶともいう。着るものを欲しがるあまり、糸紡ぎの女が糸を置き忘れた浴場のあたりに夜な夜な現れる、と語られた土地もある。
そして水辺に出て、髪を梳く。魚の骨を櫛にするという。ある村では、川辺に置かれた櫛を女が持ち帰ったところ、毎晩戸や窓を叩かれて眠れず、老人の助言で返しにいってようやく静まったという。花や菅や小枝で花冠を編むのを好み、笑いながら人をくすぐって死なせる。
図像と象徴
多くの語りで、彼女たちは裸で、髪を覆わない。衣を着ているとすれば破れたサラファンである。緑の髪と長い髪、青白い肌。ロシアには小さな少女の姿とする伝えもあり、栗鼠、鼠、蛙、鳥、あるいは牛や馬や犬に変わるともいう。
象徴の中心は髪と水である。覆われない長い髪は、未婚のまま死んだこと——すなわち婚礼の被り物を受けなかったこと——を示す。梳るという所作が繰り返し語られるのは、そのためだろう。花冠もまた婚礼の徴であり、彼女たちは果たされなかった婚礼をいつまでも演じ続けている。
図像として広まったのは19世紀以降である。本ページに掲げたのは、イヴァン・ビリービンが1934年に描いた図版である。
関わる伝承
水の主ヴォジャノーイの館に住むともいい、両者の像はしばしば融け合った。南スラヴのヴィーラ、正午の畑に立つポルードニツァ、ウクライナのマウカも、近い位置にある。語源についても定説はない。ミクロシチとヴェセロフスキーはローマの死者祭ロサリアからの借用と見たが、レフキエフスカヤはスラヴ固有の古い像だとする。
死者が正しく葬られないと祟る、という発想は各地にある。ただしルサールカの特徴は、恨みが個人に向かわず、季節のなかに割り当てられている点にある。一年のうち一週間だけ戻り、送られてまた去る。冬の女神モレーナの人形が春に送られるのと同じ構造が、初夏にも置かれている。
文化的足跡
プーシキンの未完の戯曲『ルサールカ』(1832年)とダルゴムイシスキーの歌劇(1856年)が、この像を文学の主題に押し上げた。チェコではドヴォルジャークの歌劇《ルサルカ》(1901年)が、人間に恋して声を失う水の乙女を描いている——ここではすでにアンデルセンの人魚姫と重なっている。ロシア象徴派、そして20世紀の絵画とアニメが、緑の髪の水の乙女という像を定着させた。今日ゲームや漫画に現れるルサールカのほとんどは、この文学の層に属している。