テオニム THEONYM · 世界神話アーカイブ 神格を検索
PLATE — НАВЬ
SLAVI · スラヴ神話
НАВЬ

ナヴ

ナヴィ · ナヴィエ · ナーヴィヤ

スラヴの民間信仰における死者の魂の総称であり、同時に死者の国の名でもある。非業の死を遂げた者の霊とされ、生者を妬んでこれを苛むと語られた。

01

解説

概要

ナヴ(セルビア語・クロアチア語・チェコ語・スロヴァキア語 Nav、ロシア語 Навь、ポーランド語 Nawia/Nawie、スロヴェニア語 Navje、ウクライナ語 Мавка/Нявка)は、スラヴの民間信仰における死者の魂を指す語である。同時に、単数形のナヴは死者の国そのものの名でもあった。

一つの語が、死者と死者の国の両方を指す。この二重性が、この項目を扱ううえで最初に押さえるべき点である。ただし、後者の用法——冥界の名としてのナヴ——を中世の史料が明示的に裏づけているわけではない。

神話・物語

語源はスラヴ祖語 *navь-「屍、死者」に遡る。印欧語族の同源語は多い。ラトヴィア語 nāve「死」、リトアニア語 nõvis「死」、古プロイセン語 nowis「身体、肉」、古東スラヴ語 навь「屍」、ゴート語 naus「死骸」。もとは端的に「死体」を意味する語であった。

魂としてのナヴは、けっして安らかな死者ではない。ウルバンチクらの整理によれば、この語は非業の死・早すぎる死を遂げた者、殺人者、呪術師、殺された者、溺死者の魂から生じた霊の総称として用いられた。彼らは生きている者を憎み、その生を妬む。自らの苦しみを軽くするために、生者の魂を苛むのだとされた。

具体的な記述も残る。ブルガリアの民間伝承には、産褥の女から血を吸う「十二のナヴィ」が現れる。ルーシの原初年代記は、1092年にポロツクを襲った疫病を、目に見えぬナヴィが夜な夜な街を駆けめぐって人を打ち倒すさまとして描いた。疫病という説明のつかない死が、死者の群れの襲来として語られている。民間の伝えでは、ナヴィはしばしば鳥の姿をとって現れる。

ポーランドでは、マイキ、マウキ、ナウキとも呼ばれ、これらは死後に安らぎを得られなかった少女の魂を指すという整理もある。キリスト教の枠組みでは洗礼を受けずに死んだ者ということになるが、観念そのものはより古く、身体を離れたのちに死者の国へ渡る橋を見つけられなかった存在を指したと考えられる。スラヴの妖怪学では、マイカはルサールカの同義語として扱われる。垣根の向こうで叫び、はしゃぐという語られ方は、その幼い性格に合っている。南スラヴでは、洗礼を受けずに死んだ子の魂という点でドレカヴァツと重なる。

図像と象徴

図像はない。祭祀の対象ではなく、名を持つ個体でもないからである。本項では主画像を置いていない。

象徴として重要なのは、生と死の境ではなく「まっとうな死」と「まっとうでない死」の境が引かれている点である。ナヴになるのは、寿命を全うして葬られた者ではない。溺れた者、殺された者、洗礼を受けずに死んだ子、しきたり通りに葬られなかった者である。ロシアの民俗学がザロージヌィエ・パコイニキ(「担保に取られた死者」)と呼ぶ一群がこれにあたる。東スラヴでこの種の存在を一括する語が不浄なる力であり、ナヴィもそのなかに数えられる。

系譜と関係

冥界としてのナヴについては、記述の性格を分けて読む必要がある。

死者の国ナヴは、ヴォーロスが治め、生者の世界からは海か川によって隔てられ、あるいは地の底深くにあるとされる。ルーシの民間伝承に基づく再構成では、ヴォーロスはナヴの中心の沼に住み、世界樹の根もとの黄金の玉座に剣を携えて座る。ナヴはまた、ヴォーロスが魂を導いていく広大な緑の野——牧場——として象徴的に語られる。入口は竜ズメイが守る。魂はやがて地上に生まれ直すと信じられていた。

ただし、これらの細部の多くは19世紀以降の民俗資料からの再構成であり、中世の記録が直接語っているわけではない。ポーランドのナヴィアを天上の楽園ヴィライと同一のもの、あるいはその地下版と見る説もあるが、確認されてはいない。

さらに注意を要するのが、ヤヴ・プラヴ・ナヴという三分法である。顕現界・理法界・冥界という体系立った宇宙観として現代のスラヴ新異教運動が説くものだが、これは20世紀の偽作『ヴェレスの書』に由来する。ナヴという語そのものは古いが、この三項構造は古くない。ナヴを調べるとき、目にしている記述がどの層のものかを見分ける必要がある。

文化的足跡

語としてのナヴは、現代スラヴ諸語のなかに残っている。ウクライナ語のマウカ、ニャウカは森や水辺の少女の霊を指し、文学作品を通じてよく知られる。レーシャ・ウクラインカの戯曲『森の歌』(1911年)の主人公マウカがその代表で、ウクライナでは国民的な形象になっている。スロヴェニア語のナヴィエは死者の魂を指す古語として辞書に残る。

現代のスラヴ新異教運動では、ナヴは宇宙の三界の一つとして中心的な位置を占める。ゲームや小説でも「スラヴ神話の冥界ナヴ」として扱われることが多い。もとは「死体」を意味する一語であったことと、冥界の体系的な描写が近代の産物であることを、あわせて押さえておくとよい。

02

領分・別名

03

資料

Wikidata
Q12105592 — 骨格データの出典
Commons
Nav (Slavic folklore) — 図像カテゴリ