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レシェフ
PLATE — 𐤓𐤔𐤐
PHOENICIAN · フェニキア・カナン神話
𐤓𐤔𐤐

レシェフ

ラシャプ · レシェプ · Resheph

レシェフの立像(新王国時代末〜第3中間期、石灰岩、メトロポリタン美術館蔵 89.2.215)/The Metropolitan Museum of Art, CC0 CC0

戦と疫病の神で、前三千年紀のエブラに遡る。矢をもって疫病を放ち、ギリシア人はアポローンと同一視した。新王国時代のエジプトに受容されて戦の守護神となり、ヘブライ語では神名が「疫病」を意味する普通名詞として残った。

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解説

概要

レシェフ(ウガリット語・フェニキア語 ršp、エブラ語ラシャプ、エジプト語 ršpw)は、戦と疫病に結びつく西セムの神である。記録は前3千年紀のエブラにさかのぼり、そこではすでに主要な神の一柱として、周辺の町ごとにいくつもの姿で祀られていた。前2千年紀にはウガリットで最も人気のある神の一人となり、フルリ人やヒッタイト人、さらに新王国時代のエジプトにも受け入れられた。前1千年紀にはフェニキア人がキプロスで祀り、アラム人もこの神を崇めた。

名の語源ははっきりしない。ヘブライ語やアラム語の「炎」「熱病」と同じ語根とみる説が有力だが、その根拠は二千年近く後の聖書の用例に頼っており、アッカド語の「破壊する」と結ぶ説もある。

神話・物語

ウガリットではレシェフの名を含む人名が非常に多く、祭儀の供物の一覧にも欠かさず現れるが、神話で大きな役を演じることはない。『キルタ物語』では、王キルタの妻たちが次々と失われていくくだりで、その一人をレシェフが連れ去る。疫病による死を神の行いとして語ったものと読まれる。

占いの文書(KTU 1.78)は、レシェフを太陽の女神シャプシュの門番と呼ぶ。日没の太陽が地下へ入る門を守る役とも、天体としての火星を指すとも解される。蛇の毒を払う呪文では、モートや海の怪物とともに、人に害をなす力の側に並べられる。

エジプトでは性格の二面がはっきり分かれる。王の碑文では戦車と馬にかかわる戦の神である。アメンヘテプ2世は、オロンテス川を渡る自らの姿をレシェフになぞらえ、ギザの大スフィンクスのそばに建てた石碑では、レシェフとアスタルトが王の馬術を喜ぶと記している。他方、デイル・エル・メディナの職人の村などで個人が奉納した石碑では、レシェフは戦いとは無縁の、健康と無事を授ける守り神として祈られた。

図像と象徴

本サイトが掲げるのは、メトロポリタン美術館蔵の石灰岩の立像(新王国時代末〜第3中間期、前1200〜前664年頃)である。盾を構え、剣のような棍棒を振り上げる姿で、白冠の額につくガゼルの頭からレシェフと同定される。この神の石の丸彫り像として知られる唯一の例で、ほかの作例はおもに印章やスカラベ、石碑である。

エジプトの作例が図像の手がかりのほとんどを占める。レシェフは房飾りのついた短い腰布をまとい、上エジプトの白冠をかぶる。冠の額には、王の冠のコブラの代わりにガゼルの頭がつく。片腕を頭上に振り上げて斧や槍を構える「威嚇する神」の型で表されることが多く、もう一方の手に盾や弓矢を持つ。ただし敵を打ち倒す場面に描かれることはなく、威嚇の姿は守りの力を示すものと解されている。髭はオシリスのような付け髭の場合と、外国人に特徴的な豊かな髭の場合がある。ガゼルがなぜこの神の動物とされたかは分かっていない。

新王国時代の石碑では、獅子の上に立つ裸の女神ケデシュを中心に、レシェフとミンが左右に並ぶ構図が知られている。

系譜と関係

エブラの伝承では女神アダンマが配偶神であった。エブラでもウガリットでも、レシェフはメソポタミアのネルガルに対応する神とされた。ともに戦と疫病、冥界にかかわる神である。ウガリットではアスタルトと結びつく例もある。フルリ人はイルシャッパの名で取り入れ、交易の神とした。

ギリシア人はレシェフをアポローンと同一視した。キプロスのフェニキア語とギリシア語の二言語碑文には「レシェフ・ミカル」と「アポローン・アミュクライオス」を並べる例がある。矢を射て疫病をもたらす神という点で、『イーリアス』冒頭のアポローンと通じる。ただしこの同一視がキプロスの外でも行われたかは確かでない。キティオンには「矢のレシェフ」と呼ばれる姿も祀られた。

文化的足跡

ヘブライ語聖書では、レシェフは神の名から普通名詞へと移りつつある姿で現れる。『ハバクク書』3章5節では、主の前を疫病が行き、レシェフがその後に従う。ここでは神に付き従う災いの擬人化とも読める。『申命記』32章24節では「熱病」、『ヨブ記』5章7節の「レシェフの子ら」は火花、あるいは猛禽を指すと解される。かつての神が、炎や疫病を表す語として言葉のなかに残ったのである。

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領分・別名

INTERPRETATIO — 同一視・同源
アポローン ギリシア神話 同一視
キプロスのフェニキア語=ギリシア語二言語碑文(レシェフ・ミカル=アポローン・アミュクライオス ほか)
ネルガル メソポタミア神話 同一視
エブラとウガリットの神名表でネルガルに対応させられる
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資料

Wikidata
Q167849 — 骨格データの出典
Commons
Resheph — 図像カテゴリ