ピシャーチャ
ピシャーチャス · 毘舎闍 · 食人鬼
墓地や火葬場を住処とし、人に取り憑いて狂気や病をもたらすとされる食人鬼。仏教では毘舎闍と音写されて受容された。
解説
概要
ピシャーチャ(Piśāca / पिशाच)は、インドに伝わる食人鬼である。墓地や火葬場を住処とし、人に取り憑いて狂気や病をもたらすとされる。ラークシャサよりも下位、ブータやプレータと近縁の存在に位置づけられ、悪意の強さでは最も劣悪とされることが多い。仏教に受容されて毘舎闍と音写され、『仁王経』の八部衆にも数えられた。
神話・物語
出自は文献によって異なる。ブラフマーの息から生まれたとする伝え、ダクシャの娘クロダー(怒り)とカシュヤパの子とする伝え、あるいはクロダヴァシャーの子とする伝えがある。いずれも怒りや不浄と結びつけて説明される点は共通する。
『マハーバーラタ』はこれをラークシャサ、夜叉と並ぶ三種の鬼神の一つに数える。取り憑かれた者は言葉を失い、正気を失い、病に倒れるとされ、これを祓う真言や薬草が『アタルヴァ・ヴェーダ』以来伝えられてきた。
暗闇を好み、人の肉と血を求め、意のままに姿を消すことができるとされる。生者の心を読み、相手の記憶をたどって欺くともいう。もっとも、その言葉を理解できる者には害を及ぼさぬとする伝えもあり、言語との結びつきがこの鬼神の特徴をなす。
図像と象徴
固有の像容は定まっていない。図像に現れるとすれば、痩せて血管の浮いた姿、あるいは赤い眼をもつ影として描かれる。象徴となるのは不浄と暗闇であり、共同体の外側にあるものを人の形に映したものといえる。
系譜と関係
出自は諸説あるが、怒りや不浄から生じたとする点で共通する。ブータ、プレータとは近縁の関係に置かれ、この三者が合わさって仏教の餓鬼の観念を形づくったとされる。ラークシャサやヴェーターラとも並べられるが、ヴェーターラが死体を操るのに対し、こちらは生者に取り憑く点で区別される。
文化的足跡
インドの古典文学における最も名高い関わりは、パイシャーチー語である。プラークリット諸方言の一つがこの名で呼ばれ、グナーディヤの説話集『ブリハットカター』(大説話)はこの言語で著されたと伝えられる。原典は失われたが、ソーマデーヴァ『カターサリットサーガラ』をはじめとするサンスクリット訳を通じて内容が伝わった。鬼神の言葉とされたものが、インド説話文学の一大源流を担っているという逆説がある。
北西インドからパキスタン、アフガニスタンにかけての地域は、かつてピシャーチャの住む地とされた。この観念が現在のダルド諸語話者に対する古代の呼称と結びつくとする説もある。近現代のインドでは、怪談や映像作品に繰り返し登場する。