ミトラ・ヴァルナ
ミトラ・ヴァルナ · ミトラーヴァルナウ · Mitra–Varuna
『リグ・ヴェーダ』で緊密に結びつき双数形の一語で呼ばれる二柱の神で、宇宙の秩序リタを守る。ミトラが契約と友好を、ヴァルナが違反の処罰を司り、同じ秩序の二つの面をなす。前14世紀のヒッタイト・ミタンニ条約に証人として名が現れ、デュメジルの主著の題でもある。
解説
概要
ミトラとヴァルナは、ヒンドゥー教の最古の聖典『リグ・ヴェーダ』で、ひとまとまりに呼ばれることの多い二柱の神である。宇宙の正しい秩序リタを守る神々で、ミトラが契約と友好を、ヴァルナがその違反を罰する厳しさを担う。二柱の結びつきは強く、サンスクリット語では二つのものを一語で表す特別な形で「ミトラーヴァルナウ」と呼ばれた。フランスの比較神話学者デュメジルの主著の題でもある。
なお本サイトの分類では、ヒンドゥーの体系に含めて扱う。二柱が常に組で現れるため群記事とする。
一つの語で呼ばれる二柱
サンスクリット語には、二つのものをまとめて一つの語で表す「両数」の形がある。天と地をまとめた「ディヤーヴァー・プリティヴィー」もその例で、ミトラとヴァルナも一語で呼ばれた。文法そのものが、二柱が切り離せない一対であることを示している。
同じ秩序の二つの面
ミトラは契約と友好、昼、人との近しい交わりを司る。ヴァルナは誓いを破った者を罰し、夜と宇宙の秩序を司る、遠く厳しい神である。一方は約束を結ぶ面を、他方は約束を破った者を罰する面を担い、二柱は同じ秩序の表と裏をなしている。
デュメジルの三機能
フランスの比較神話学者ジョルジュ・デュメジルは、印欧語族の社会と神話が、主権・戦闘・生産という三つの機能で組み立てられていると唱えた。そのうち主権の機能には、法と契約の面(ミトラ)と、呪術的で畏怖を与える面(ヴァルナ)の二つがあるとし、ローマのディウス・フィディウスとユーピテル、北欧のテュールとオーディンにも同じ一対を見出した。その著書『ミトラ・ヴァルナ』(1940年)は、この理論の中心となる著作である。三機能の仮説は大きな影響を与えた一方、図式的にすぎるという批判も根強い。
条約の証人
紀元前14世紀、ヒッタイトとミタンニの王が結んだ条約の碑文には、誓約の証人となる神々として、インドラやナーサティヤとともにミトラとヴァルナの名が刻まれている。ヴェーダの神々の名がインドの外で確かめられる最古の例であり、契約の神が実際の条約の証人となっている点も興味深い。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ヴァルナを描いた図である。
関わる神格・伝承
ミトラとヴァルナの一対で、宇宙の秩序リタを守る。
文化的足跡
『ミトラ・ヴァルナ』は、20世紀の比較神話学で最も影響力のあった著作の一つである。
なおヒンドゥー教は今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその神格の伝承と図像に関する学術的な整理である。