メーナカー
メナカー · シャクンタラーの母
ヴィシュヴァーミトラの苦行を妨げるために遣わされた天女。娘シャクンタラーを置いて天界へ帰ったことで広く知られる存在。
解説
概要
メーナカー(Menakā / मेनका)は、インドラの天界に仕えるアプサラスである。苦行を積む聖仙ヴィシュヴァーミトラの行を妨げるために遣わされ、その使命を果たしたのち、生まれた娘シャクンタラーを置いて天界へ帰った。娘の子バラタがバーラト(インド)の名の由来とされるため、系譜の上では重要な位置を占める。
神話・物語
ヴィシュヴァーミトラの苦行が積み上げる力は、神々にとって脅威であった。位を奪われることを恐れたインドラは彼女を遣わし、行を妨げさせる。彼女は聖仙の前に姿を現し、その心を乱した。二人は十年ほどを共に過ごしたと語られる。
やがて我に返った聖仙は、自らの怠りを悟って彼女を退け、再び苦行に入った。彼女は生まれた娘をマーリニー河のほとりに置き去りにして天界へ帰る。鳥(シャクンタ)に守られていた娘は聖仙カンヴァに拾われ、その名からシャクンタラーと呼ばれた。のちにドゥフシャンタ王と結ばれ、子バラタを産む。
叙事詩は彼女を責める調子では語らない。命じられて動く者であり、留まる選択肢を与えられていなかったからである。娘を置いて去らねばならなかったこと自体が、アプサラスという存在の在り方を示している。
図像と象徴
固有の像容は定まっていない。図像に現れるとすれば、苦行する聖仙の前に立つ場面である。象徴となるのは、置き去りにされた嬰児と、それを守った鳥である。彼女自身の物語は、その一点で終わっている。
系譜と関係
天界のアプサラスの一人。ヴィシュヴァーミトラとの間に娘シャクンタラーをもうけた。その子バラタは、『マハーバーラタ』の系譜においてクル族の遠祖にあたり、バーラタという一族の名の由来となる。ラーマーヤナのバラタとは別人である。
文化的足跡
娘シャクンタラーの物語は、カーリダーサの戯曲『アビジュニャーナ・シャークンタラム』によって世界的に知られるようになった。18世紀にウィリアム・ジョーンズが英訳し、ゲーテが激賞したことでヨーロッパのインド観に影響を与えた作品である。母である彼女自身は劇の中心に置かれないが、その一点の行為がなければ物語は始まらない。
苦行を妨げるために天女が遣わされるという型は、インド神話に繰り返し現れる。行によって力を蓄える者と、その力を恐れる神々という緊張関係が背景にあり、彼女はその型を最も明瞭に体現する例として引かれてきた。