マモン
マモン · マーモーナー · Mammon
アラム語で「富」を意味する普通名詞が、イエスの句「神とマモンに仕えることはできない」を経て固有名詞化し、中世に貪欲を司る悪魔となった。ミルトンは天にあってさえ黄金の敷石を見ていた最も卑しい堕天使として描いた。
解説
概要
マモン(アラム語マーモーナー)は、新約聖書において一般に金銭、物質的な富、あるいは富を約束するあらゆる存在を意味すると考えられ、利得の貪欲な追求と結びつけられる。
『マタイによる福音書』と『ルカによる福音書』は、いずれもイエスがこの語を用いた句を引く。英語では通常「あなたがたは神とマモンの両方に仕えることはできない」と訳される。
中世において、しばしば擬人化され、ときに——
なお本サイトの分類では、アブラハムの体系に含めて扱う。
普通名詞から悪魔へ
アラム語の日常語。 「マーモーナー」は「財産」「富」を意味する普通の語である。悪魔の名ではない。
イエスの句。 「神とマモンに仕えることはできない」——ここでのマモンは、擬人化された比喩である。
富が主人のように人を仕えさせる、という表現である。
大文字化。 ラテン語訳とその後の翻訳において、これが固有名詞として扱われるようになった。
悪魔として。 中世の神学において、マモンは貪欲を司る悪魔となった。
ルシファーと同じ構造。 普通名詞が、翻訳と解釈を経て人格を得る。
七つの大罪
グレゴリウス1世が七つの大罪を定めたのち、各罪に悪魔が配された。
貪欲。 ペーテル・ビンスフェルト(1589年)の対応において、マモンは貪欲(アウァリティア)を司る。
七柱。 ルシファー(傲慢)、ベルゼブブ(暴食)、アスモデウス(色欲)、サタン(憤怒)、マモン(貪欲)、ベルフェゴール(怠惰)、レヴィアタン(嫉妬)。
体系化。 罪と悪魔の一対一の対応が作られた。
ミルトンとスペンサー
『妖精の女王』。 スペンサー(1590年)は、マモンを地下の洞窟で金を数える存在として描いた。
『失楽園』。 ミルトンのマモンは、堕天使のなかで最も卑しい者である。天にあってさえ、その目は神を見ず、黄金の敷石を見ていた。
地獄の宮殿。 地獄の宮殿パンデモニウムを建てたのはマモンである。
資本主義の批判。 19世紀以降、マモンは資本主義と物質主義の象徴として用いられた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ジョージ・フレデリック・ワッツ《マモンの崇拝》(1885年)である。
ワッツの絵。 巨大な王座に坐す肥満した姿で、その手の下で人が押しつぶされている。
産業社会への批判を込めた作品である。
関わる神格・伝承
七つの大罪の悪魔の一。ルシファーと同じく普通名詞に由来。
文化的足跡
「マモン」は、今日も物質主義と拝金主義を批判する語として用いられる。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。