マモン
マモン · マーモーナー · Mammon
アラム語で「財産」を意味する普通名詞が、イエスの言葉「神とマモンに仕えることはできない」を経て固有名詞のように扱われ、中世に貪欲を司る悪魔となった。ミルトンは天の黄金の敷石ばかり見ていた最も卑しい堕天使として描いた。
解説
概要
マモンは、新約聖書で富や財産を指す言葉で、もとはアラム語で「財産」を意味するごく普通の名詞(マーモーナー)であった。イエスは「あなたがたは神とマモンの両方に仕えることはできない」と語り、富を人を従わせる主人にたとえた。その言葉が固有の名として扱われるようになり、中世には貪欲を司る悪魔とされた。アブラハムの宗教の体系に含めて扱う。
神話・伝承
「神とマモンに仕えることはできない」というイエスの言葉は、『マタイによる福音書』6章24節と『ルカによる福音書』16章13節に伝わる。ルカでは、不正な管理人のたとえに続いて「不正なマモンで友をつくりなさい」(16章9節)とも語られる。いずれも富を擬人化したたとえであり、悪魔の名ではなかった。ラテン語訳聖書もこの語を訳さずに mammona のまま残し、中世にはこれが富の悪魔の名として扱われるようになった。
6世紀末の教皇グレゴリウス1世が七つの大罪を整理したのち、それぞれの罪に悪魔を割り当てる試みが現れた。1589年のペーテル・ビンスフェルトの対応づけでは、ルシファーが傲慢、マモンが貪欲、アスモデウスが色欲、レヴィアタンが嫉妬、ベルゼブブが暴食、サタンが憤怒、ベルフェゴールが怠惰を司るとされる。
エドマンド・スペンサーの『妖精の女王』(1590年)第2巻では、騎士ガイアンが地下の「マモンの洞窟」で、黄金を積み上げた富の神マモンの誘惑を退ける。ミルトンの『失楽園』(1667年)では、マモンは天から堕ちた霊のなかで最も卑しい者とされ、天にいたときでさえ神を見ずに、天の黄金の敷石ばかりを見つめていたという。地獄に落ちたのちは、配下を率いて山を掘り、宮殿パンデモニウムのための黄金を掘り出した。宮殿を設計したのは、工匠のムルキベルである。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、ジョージ・フレデリック・ワッツの《マモンの崇拝》(1885年)である。玉座に坐った肥満した姿で、その手の下に人々が押しつぶされている。
系譜と関係
七つの大罪の悪魔の一柱とされる。
文化的足跡
19世紀以降、「マモン」は拝金主義や物質主義を批判する言葉として用いられるようになった。
なおユダヤ教・キリスト教・イスラームは今日も信仰されている生きた宗教であり、本項の記述はその伝承と観念の歴史に関する学術的な整理である。