マフデト
メフデト · マフテト · 闇を貫く者
猫科の獣あるいはマングースの姿をとるエジプトの女神。蛇と蠍から王を守り、法の裁きを体現する。処刑吏の職杖を駆け上がる姿で表された。
解説
概要
マフデト(Mafdet)は、エジプト神話の女神。猫科の獣——チーターあるいはサーバルと解される——の姿、またはマングースの姿で表される。蛇と蠍の咬害から人を守り、法の裁き、おそらくは死刑そのものを神格化した存在とされる。
第1王朝の神々のうちに数えられる、きわめて古い神格である。デン王の治世に目立って現れ、その墓から出た石製容器の破片に図像が残り、パレルモ石の献納の記事にも名が見える。
神話・物語
この女神の働きは、守ることと殺すことの二つである。
守る対象は王の居室と聖域であり、そして王その人である。『ピラミッド・テキスト』は、この女神を蛇を屠る者、王と深く結ばれた存在として記す。毒を持つ獣はマアト——秩序と正義——に背く者と見なされたから、それを退けることは治安ではなく正義の執行にあたる。太陽神ラーを毒蛇から守る役も担った。
ラーの日々の航行のあいだ、この女神は脅威を退ける。夜のあいだ狩りをし、夜明けが訪れることを保証する。「闇を貫く者」という添え名は、この働きに由来する。
オシリスがばらばらにされたとき、その身を守り、断片を繋ぎ合わせるのを助けたとも語られる。
殺す側の姿は容赦がない。この女神は罪を犯した者の心臓を引き裂き、それをファラオの足元に運ぶとされた。猫が仕留めた鼠や鳥を人のもとへ持ってくるのと同じ仕草である。新王国期には、ドゥアトの審判の間を支配する者とされ、ファラオの敵はその爪で首を刎ねられた。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、エジプト学の慣行に沿って描かれた線図である。チーターの頭を持つ女の姿で表されている。
図像は一定しない。猫科の獣そのもの、マングース、そうした獣の頭を持つ女、あるいは女の頭を持つ獣——いずれの形も伝わる。獣の種類も定まらず、チーターと解されることが多いが、サーバルとする説もある。しばしばチーターの毛皮をまとった姿で描かれた。
最も特徴的なのは、処刑吏の職杖の側面を駆け上がる姿である。刑の道具そのものに獣が刻まれている。神像として拝まれるのではなく、執行の器物に取り付く形で表されるという点で、この女神の性格がよく出ている。
王墓の図像では、この女神の記号がアヌビスの記号と並べて置かれる。マフデトが狩人あるいは処刑吏として神々に随行し、アヌビスが使者かつ従者としての役を果たす——そうした役割分担を示すものと解されている。
系譜と関係
系譜は伝わらない。関係が語られるのはラー、オシリス、アヌビス、そして王に対してである。
猫科の女神という点ではセクメトやバステトと同じ系列に属するが、成立はこちらの方が古い。第1王朝にすでに現れ、ピラミッド・テキストに登場するこの女神は、後代の獅子女神たちの先行形態にあたる位置にある。
文化的足跡
マフデトは日本語圏でほとんど紹介されていない。エジプトの猫の女神といえばバステトが挙げられ、その千年以上前から王の傍らにいた獣の女神は名を知られていない。
この女神が示すのは、エジプトにおいて正義が抽象概念ではなかったということである。マアトが秤で量る秩序であるのに対し、マフデトはその秩序に背いた者の首を落とす爪である。同じ体系のなかに、量る神と裂く神が並んで置かれている。