リントヴルム
リントブルム · リントヴルム · レンオアム
北欧・中欧の伝承に語られる蛇形の竜。中欧では前肢と翼を備え、スウェーデンでは四肢のない森の大蛇として語られる。下にあるものを増やすとされ、財宝に伏せる竜の話の源になった。
解説
概要
リントヴルム(ドイツ語 Lindwurm、リントブルムとも)は、北欧・西欧・中欧の伝承に語られる蛇形の怪物である。名は中世初期のゲルマン語に遡り、lind と worm(蛇、竜)の合成語である。最古の形は中高ドイツ語 lintrache で『ニーベルンゲンの歌』に現れ、のちに lintwurm、中低ドイツ語 lintworm、古ノルド語 linnormr、古スウェーデン語 lindormber となった。lind の意味は確定していない。ゲルマン祖語の「しなやかな」を意味する形容詞に遡るとする説、「巻きつく」を意味する語に遡るとする説がある。
姿は地域によって割れる。中欧では鱗の胴に竜の頭、前肢二本を備え、翼を持つこともある。スウェーデンの民間伝承では、四肢をまったく持たない森の大蛇である。ただしこの差は「種類」の違いではなく、同じものの地域差と理解されてきた。
登場する物語
スカンディナヴィアのリントヴルムは、森の奥の岩のあいだに住む巨大な蛇として語られる。暗い体色に明るい腹をもち、背には魚のような鰭か馬のようなたてがみが走る。そのため「たてがみ蛇」(manorm)とも呼ばれた。敵に向かって乳のような悪臭の液を吐き、目をくらませる。卵は菩提樹(スウェーデン語 lind)の樹皮の下に産みつけられるという——名の由来を樹木に求める民間語源である。追跡のときには自分の尾を咥えて輪になり、猛烈な速さで転がる。「車輪蛇」(hjulorm)の名はここから来る。
「リントヴルムの下にあるものは、その蛇が育つのと同じ速さで増える」。北欧の伝承にはこの言い方があり、竜が財宝の上に伏せる話の根拠になっている。財を増やすために宝の上に寝るのであって、守るために寝ているのではない。
伝承は二種類を区別する。幸運をもたらす良いもの——しばしば呪いで姿を変えられた王子である——と、見つけ次第人を襲う悪いものである。前者は「リントヴルムの王子」として民話の型をなし、蛇の花婿が娘の働きによって人間に戻る筋をとる(ATU分類 433B)。
オーストリアのクラーゲンフルトの伝承が最もよく知られる。13世紀に遡るこの話では、川の主であるリントヴルムが増水を起こし、川沿いの旅人を襲った。領主が懸賞をかけると、数人の若者が雄牛を鎖につなぎ、蛇が牛を呑んだところを釣り上げるようにして仕留めたという。
スウェーデンでは、この存在の実在が19世紀まで信じられていた。民俗学者グンナル・オーロフ・ヒュルテーン=カヴァリウス(1818–1889)はスモーランドで五十件ほどの目撃証言を集め、1884年には生死を問わず一頭を捕らえた者に懸賞金を出すと告知した。学者たちには嘲笑され、賞金を請求する者は現れなかった。
図像と象徴
本サイトが掲げるのは、クラーゲンフルトのノイアー・プラッツに立つリントヴルムの噴水像である。16世紀に彫られたもので、翼と四肢を備え、口から水を噴く。この像の頭部は、1335年に近くの採石場で見つかったケブカサイの頭骨をもとに造形された。絶滅動物の最初期の復元例として、科学史の文脈でしばしば言及される。伝説の怪物の像が、実在した動物の化石の復元でもあるという二重性がこの像の面白さである。
紋章学では扱いが分かれる。19世紀イギリスの考古学者チャールズ・ブーテルは、紋章上のリントヴルムを「翼のない竜」と定義した。ドイツの歴史家マクシミリアン・グリッツナーは、通常の二本ではなく四本の足を持つ竜と定義しており、こちらでは翼を備えた図も含まれる。定義が国によって逆を向いているわけで、この語が指す範囲の曖昧さがそのまま紋章学の用語法に持ち込まれている。
北欧側で重要なのは、翼のない蛇形こそが本来の姿だという点である。シグルズがファフニールを討つ場面を刻んだシグルズ図像でも、『ニーベルンゲンの歌』でも、竜は巨大な蛇として表される。ドイツの民俗学者ヴィル=エーリヒ・ポイカートによれば、ドイツにおける「ドラッヘ」(drache)は8世紀以前に入ってきた外来の観念であり、ゲルマン人が元来知っていた地を這う怪蛇と、南方由来の空飛ぶ竜とが同格に扱われるようになるのは15世紀から16世紀のことである。翼は、あとから足された属性である。
関わる伝承
古ノルド語の linnormr は、ニーズヘッグやヨルムンガンドのような大蛇にも用いられる語である。ノルウェー語のリンノルム(linnorm)は海の怪物を指すことが多く、馬の頭とたてがみ、蛇の胴、炎のような赤い目をもち、船を襲って沈めるとされた。18世紀から19世紀にかけて、北欧の漁師や船乗りによる大海蛇の目撃談が絶えなかった背景には、この語彙がある。
フランスのギーヴル(guivre、旧形ヴーヴル)、イギリスのワイバーンは、翼をもつリントヴルムの派生と見なされる。いずれもラテン語 vīpera(毒蛇)に遡る語であり、名の系統としてはリントヴルムとは別である。
文化的足跡
クラーゲンフルト市はこの怪物を市の紋章に採り、今日まで象徴として用いている。ミュンヘンのリントヴルム通りをはじめ、ドイツ語圏の地名にもこの語は残る。
近代以降の幻獣分類では、リントヴルムはしばしば「翼と後肢を欠く竜」という一つの型として整理される。ただしそれは19世紀以降の図鑑的な整理であって、伝承の側は形をこれほど厳密には決めていない。森の大蛇であることと、下にあるものを増やすこと——伝承が繰り返し語るのはこの二点である。