ケーサリン
ケサリ · ケーサリー · ケーサリー・ナンダナの父
ハヌマーンの父にしてアンジャナーの夫であるヴァーナラ。須弥山を治め、のちキシュキンダーの総司令官となった。名はサンスクリットで「獅子」を意味する。
解説
概要
ケーサリン(Kesari)は、ヒンドゥー教のヴァナラ(人語を解する猿族)の一人である。ハヌマーンの父にしてアンジャナーの夫にあたる。
須弥山(メール山、スメール山)を治めた強大なヴァナラとされる。
神話・物語
ケーサリンが須弥山を治めていたころ、ブラフマーがマナガルヴァーというアプサラス(天女)に呪いをかけ、ヴァナラに変えた。彼女はアンジャナーの名でケーサリンに嫁ぐ。長いあいだ夫婦には子がなかった。アンジャナーは子を求めて風の神ヴァーユに祈りを捧げる。
シヴァ派の伝えでは、事情はさらに込み入っている。ヴィシュヌがラーマとして化身しラーヴァナを討とうとしていたとき、これを助けるために子をもうけるようシヴァが求められた。シヴァとパールヴァティーはヴァナラの姿をとって交わる。ヴァーユが現れると、二人は自らの存在を明かし、パールヴァティーは胎内の子を示した。ヴァナラの姿の胎児をカイラーサへ連れて行くことを拒んだパールヴァティーは、シヴァの指示に従ってその子をヴァーユに託し、ヴァーユがこれをアンジャナーの胎に移した。こうしてハヌマーンが生まれる。
のちケーサリン、アンジャナー、幼いハヌマーンは、キシュキンダーの王リクシャラージャ——ヴァーリンとスグリーヴァの父——の求めに応じてキシュキンダーへ移った。ケーサリンは須弥山を治めながら、その総司令官となる。あらゆるヴァナラに敬われ、ブラフマーの子で熊の王であるジャーンバヴァットと親交を持った。
晩年には、ラーマのヴァナラ軍とともにランカーのラーヴァナに対して戦い、多くの強力な魔族を討ったとされる。
図像と象徴
固有の図像は伝わらず、本サイトも主画像を掲げない。ヴァナラの英雄を描いた近代の版画は数多いが、ケーサリンを名指した作例は知られていない。
名はサンスクリットで「獅子」を意味する。猿族の王が獅子の名を負うという取り合わせは、この人物の勇猛さを表すものと解される。
象徴として押さえておきたいのは、この人物が果たす役割である。ハヌマーンには生物学上の父と、恩寵によって子を授けた父がいる。ケーサリンが前者、ヴァーユが後者である。ハヌマーンがケーサリー・ナンダナ(ケーサリンの子)ともパヴァナ・プトラ(風の子)とも呼ばれるのは、この二重性による。神の子でありながら地上の父を持つという構造が、この英雄の位置を決めている。
関わる神格・伝承
妻はアンジャナー、子はハヌマーン。キシュキンダーではリクシャラージャに仕え、ジャーンバヴァットと親交を持つ。
シヴァ派の伝えでは、ハヌマーンはシヴァの化身(ルドラーヴァターラ)とされる。この場合、ケーサリンの位置はさらに間接的なものになる。同じ英雄の父が誰であるかをめぐって、ヴィシュヌ派とシヴァ派で異なる説明が立てられているわけである。
文化的足跡
日本語圏でこの人物の名が挙げられることはまずない。ハヌマーンが「風の神の子」として紹介されるとき、地上の父の存在は省かれるのが常である。
しかしインドの寺院では、ハヌマーンの傍らに父母を配する作例がある。神の恩寵によって生まれた子にも、育てた家族がいるという理解が、そこには示されている。
領分・別名
親・配偶者・子までを表示(全体はフル系図ページへ)。実線=主要伝承/点線=異伝・別系統。